情報や人をつなげるために無駄こそが大事

 続いて最後のキーワードとして入山さんは「H型人材」という言葉を挙げました。H型人材というのは、自分の強い専門性のほかにも得意分野を持つ人材のことを指します。

 入山さんは強調します。「異なる人脈のネットワークの間のことを『ストラクチャル・ホール』といいます。H型人材というのは、このストラクチャル・ホールにいる人のこと。そこには一番情報が集まり、結果的に得をするんです」

 H型人材の例として入山さんが紹介したのが、旧日本興業銀行出身で、シリコンバレーの有名なベンチャーキャピタルのパートナーまで上り詰めた伊佐山元さん。シリコンバレーと日本の昔ながらの企業社会というまったく異なるネットワークを橋渡ししている貴重な存在として、彼のところに情報も人も集まってくるのだといいます。

 「知の探索」を行って「イントラパーソナル・ダイバーシティ」を持ち、「H型人材」になる……。いざ実践することを考えたときに、どこから手をつけたらいいのでしょうか。

 「異業種交流会に出る、これまで手にしたことのない本を読んでみるなど、何でもいいんです。こういうことは一見無駄に感じるかもしれませんが、無駄こそが大事。

 そのときに大事にしてほしいのは『自分』です。知の探索は失敗が多いですが、自分が大事にしていることなら、失敗しても別のことをやってみようと思えます。やりたいことが分からないという人も、これまで生きてきた中でどこかに強い原体験があるはず。楽しかったこと、うれしかったこと、悲しかったこと……。そうやって掘り下げていくと、自分が何を大事にしているか分かります」(入山さん)

 女性が働き続けるうえで大切なポイントが世界最先端の経営理論に垣間見えたこの講演。入山さんのこんなメッセージで、講演は幕を閉じました。

文/谷口絵美 写真/古立康三