相手の心を解きほぐす間

 もっとも、漫然と話し掛けたのでは効き目は弱い。どうしたら思いが伝わるか。こうした場合も大切なのは間なのです。

 「私はV・ファーレン長崎に関わるすべての人が安心して業務に打ち込める体制をつくりたい。皆さんの力をぜひ貸してほしい」

 例えば、こんなメッセージも、一定のスピードで淡々と話したのでは気持ちは伝わりません。リーダーの話し方一つでメンバーのやる気は2倍、3倍にもなるのです。

 朝礼でも単に連絡事項を読み上げるだけでは何一つ頭に残りません。これも少し間を置くだけでぐっと伝わりやすくなります。

 間がなぜ必要か。私は相手がいるからだと思っています。間があることで、お客様と会話ができる。しっかり相手を見て、反応を見ながら間を取るのが基本です。

 私は来客や商談のとき、社長と部下の方二人がいらしたとしたら、社長の顔を6割、あとの4割は他のお二人の顔を見てしゃべるようにしていました。すると、その場にいた人全員を巻き込めます。

朝礼でも商談でも社内コミュニケーションでも、思いを伝えるときに「間」は大切 (C)PIXTA
朝礼でも商談でも社内コミュニケーションでも、思いを伝えるときに「間」は大切 (C)PIXTA

 親御さんが子どもを叱るときならどうでしょうか。想像してみてください。まくしたてるように一方的に叱ったら、子どもは反発するだけ。

 まず重要な点を話したら、少し間を置いて「分かる?」と問いかける。このように子どもの気持ちをくみ取りながらコミュニケーションを図らないと、こちらは伝えたつもりでも、全く伝わっていないことになります。

 夫婦もそう。間を取りながら話せば、夫婦仲はきっと円満になりますよ。学校なら先生と生徒、会社であれば上司と部下、企業と顧客、医師には患者、政治家には民衆がいます。相手に対してどれだけ真摯に向き合っているでしょうか。

 例えば、政治家の小泉進次郎さんは間の取り方が上手ですね。演説で聴衆から笑いを誘い、次の流れにいくときに2、3秒間を置いて、聴いている人たちの顔をぐるりと見ています。

 職場であれ家庭であれ、誰かに一生懸命訴えかけているのに伝わらない。そんなときは、間がうまく取れていないのかもしれません。言いたいことを熱弁するだけでは、相手の心までは届かないもの。皆さんもぜひ間を取る練習をしてみてはいかがでしょうか。

聞き手・文/荻島央江 人物写真/菅 敏一 イメージ写真/PIXTA


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