数字が伸びなかったのは、ある視点を忘れていたから

 テレビの前のお客様は私たちをどんなふうに見ているのか。そのことに心配りをしないと、決して相手の心には届きません。実際、テレビ通販番組でこうした離見の見の視点を忘れ、自分の思いを一方的に発信してしまったときは、まず数字が伸びませんでした。

 例えば、商品紹介をする際「これはいいでしょう」「安いでしょう」と一方的に連呼すると、お客様の反応が全くないときがあります。いくら品質がよく、お買い得な商品だったとしても、我見で語っていたら相手に響かない。

 お客様の立場になって、商品の魅力をしっかり分かってもらえるよう離見で話すことで初めて、我見と離見、すなわち、売る側と買う側の双方の視点が一致するのです。

 そんなふうに自分が話していることを相手が理解しているか、真意が伝わっているかと想像しながら話せたときは、かなりの確率で結果もついてきました。

 これで終わりではありません。我見と離見を客観的に見渡す、離見の見がないといけないのです。

 通販番組の放送中、直接お客様の姿を目にすることはできないので、想像力を膨らませるには場数を重ねるしかない。自分ではうまく伝わったと思っても結果が出ないのは、離見の見が不十分だったから。何度も失敗を重ねながら離見の見を磨いていくのです。

「我見」と「離見」はもちろん、それら全体を客観的に見渡す「離見の見」を磨くことが必要なのです 写真/菅 敏一
「我見」と「離見」はもちろん、それら全体を客観的に見渡す「離見の見」を磨くことが必要なのです 写真/菅 敏一

 場の空気感をどうしたら観客と共有できるか、能面を着けていて観客の姿がはっきり見えない中でも、世阿弥は舞台の上で舞いながら考えたのでしょう。