あなたの常識は「誰かの非常識」

 世阿弥の考え方を仕事に当てはめてみてください。皆さんは、離見の見を意識してお客様や上司、部下に接していますか。

 仕事に一生懸命な人ほど狭い業界の常識に染まりがちです。でもそんな「常識」の中には、お客様や若い社員にしてみれば、なぜそうなるのか分からない「非常識」なルールも多々あるように思います。

 例えば、日本の家電業界の存在感が薄くなっています。これはどうしてかといったら、我見に走った部分が多少あったからではないでしょうか。消費者はどんなものを求めているかをメーカーの立場から考えて、「日本製品は品質がいいから、値段も高いです」と言っていたような気がします。

 そのうち、品質もいい、値段も安いという他の国のメーカーに顧客を奪われ、逆転されてしまった。我見だけで事を進めたから、周囲とはかけ離れた独自の進化をする「ガラパゴス化」に陥ったのです。その結果、国際競争力が弱くなったのではないかと思います。

 よかれと思って製品を作っても消費者から支持されない。常に消費者の動向を意識しながら商品開発をすべきで、相手のことを分かろうとする姿勢が何より重要だと思います。とりわけ変化の速い現代ではなおさら。現代の私たちの課題に引きつけて考えられる視点を示しているのが、世阿弥のすごさです。

 お客様の気持ちを理解できなかったら、ビジネスは決して成功しない。お客様の気持ちが分かれば、売れる製品やサービスが作れると思います。お客様だけではありません。上司や部下、同僚、家族やパートナーなど相手が誰であれ、およそ他者を理解する心に欠ける人は、仕事でも家庭でも満足感や達成感を得ることはないでしょう。

 どんな世界でも離見の見の視点を持ち、独りよがりにならない努力を続けていくこと。これが成長の条件なのかもしれません。

高田 明(たかた・あきら)

ジャパネットたかた創業者、V・ファーレン長崎社長。1948年長崎県生まれ。大阪経済大学卒業後、機械製造会社勤務を経て、父親が経営するカメラ店で働く。1986年に独立し、カメラ販売の「たかた」(現ジャパネットたかた)を設立。ラジオ通販で手応えをつかみ、通信販売にシフト。2015年、社長を退任。2017年4月、サッカーJ2(当時)のクラブチーム、V・ファーレン長崎の社長に就任。同年11月の「奇跡のJ1昇格」に貢献した。著書に「高田明と読む世阿弥」などがある。(写真:菅 敏一)

聞き手・文/荻島央江 人物写真/菅 敏一


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著者:高田明、監修:増田正造
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