本来ならば、受診者に「自分の乳腺濃度が4グループのどこに入るのか」、また「高濃度で見えづらければエコーを受けるオプションがあり得る」ことを説明すればいいだけです。簡単に改善できるはずなのに、なぜそのようになっていないのでしょうか。

 2017年に日本乳癌検診学会・日本乳癌学会・日本乳がん検診精度管理中央機構が共同で提言しています。その要旨は次の通りです。

「高濃度乳腺はあくまで乳房の性状であり、病気ではない」

 よって「要精密検査と判断してはならず」、その後の対応(エコー検査など)は「保険診療による追加検診の施行は認められない」というわけです。

 またエコーには、「死亡率減少効果は明らかではなく」、「人的資源確保を含め十分整っていない」ので、自治体の健診としては不適当としています。

 ここまでの話の流れは別段おかしくはありません。

 しかし、だからといって、これが乳腺濃度を通知しない理由にはなりません。論理の飛躍があります。おそらく乳腺濃度を通知することで、エコーの希望者が殺到して医療機関がパンクすることや、エコーを自治体の健診として受けられないことに対してクレームが来ることなどを危惧しているのだと推察します。

 では、このまま現状を放置していいものでしょうか。

 乳腺濃度を通知することには、さまざまなメリットが考えられます。

 もし自分が高濃度乳腺であることが分かれば、乳房やわきの触診など、セルフチェックを念入りにするようになるかもしれません。少なくとも、シコリをいぶかしみながらも放置する、ということはぐっと減るでしょう。

 エコーの検査数は増加するかもしれませんが、自費診療なので増加の勢いをある程度抑えることができます。むしろそういった形で段階的に検査数が増えるほうが、もし「乳がん検診でエコーを認める」と厚生労働省からお達しがあったとしても(おそらく近い将来に実現するはず)、パニックにならずに状況をソフトランディングさせることができるはずです。

 まだまだ過渡期にある乳がん検診ですが、先の共同声明はこうも述べています。乳腺濃度は「受診者個人の情報」であって、「受診者の知る権利は尊重されるべきである」。

 ここは大事なポイントです。

 もし乳がん検診を受けたら、現行の通知結果だけで満足せず、「私の乳腺濃度は4グループのどこに入るのですか」と質問してください。

 自分の健康管理に必ず役に立ちますし、その積み重ねが、乳がん検診の成熟を促すことになるはずです。

 繰り返しますが、若い女性が乳がんで命を落とすことで悲しむ人が一人でも減る世の中になることを、切に祈っています。

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絵・文/近藤慎太郎


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■参考文献
(1)US Preventive Services Task Force. Screening for breast cancer:U. S. Preventive Services Task Force recommendation statement. Ann Intern Med 2009;151:716?26, W?236
(2)Pijpe Aetal;GENEPSO;EMBRACE;HEBON. Exposure to diagnostic radiation and risk of breast cancer among carriers of BRCA1/2 mutations:retrospective cohort study(GENE-RAD-RISK). BMJ. 2012;345:e5660.
(3)Ohuchi N et al;J-START investigator groups. Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial(J-START): a randomised controlled trial. Lancet 2016;387:341-8
有効性評価に基づく乳がん検診ガイドライン 2013年度版
乳癌診療ガイドライン 2015年版