記憶を外側に取り出し、ダウンサイジングする

 エネルギーケアを行い、疲れが軽くなった、と思ったら着手したいのが、「記憶ケア」です。

 私はカウンセリングの場でクライアントさんに、

「もうその記憶は外付けハードディスクに移動してしまいましょう」

 とお伝えしています。記憶を何度も何度も頭の中で反すうしてしまうのはなぜか。原始人モードで考えると、「メモがなかった」からです。

 現代人には「文字」というツールがあります。本能が「覚えておけ、忘れるな」と言ってくるのであれば、本当にメモにしてアウトプットしてしまえば、本能は「ちょっと忘れてもいいかな」と安心します。

書くことのメリットは二つあります (C) PIXTA
書くことのメリットは二つあります (C) PIXTA

 書くことのメリットはもう一つ、「その出来事をダウンサイジングできる」というところにあります。

 例えば上司に、「今日のプレゼン、あんまり筋が通ってなかったね。キャリアのわりに成長が遅過ぎない?」と言われてすごくショックを受けたとします。そのことをメモに書く段階で、ちょっとダウンサイズ。

 「上司からパワハラを受けた」と書くのです。こう書けば、細かい部分は「もう忘れていい」記憶となります。「今日パワハラされた。あいつは怖いヤツ!」こんなふうに書いてもいい。

 ポイントは、最初から冷静になろうとしないで、感情の勢いのまま書くことです。

 なぜなら、冷静になろうとすると「私はこうするべきだった」という反省ばかりが強くなり、自分を責めるようになってしまうから。これでは子どもの言い分を聞かず、口をふさぐのと同じ。「あのやろう!」みたいに、怒りをぶつけるモード(赤コンピューター)で始めて大丈夫なのです。勢いよく気持ちをぶつけてこそ、「ふーっ」と落ち着く段階(青コンピューター)が訪れます。

 こうやって気持ちが落ち着いてきたら、そこでやめてしまうのはもったいない。もう一歩、進めるのがポイントです。出来事の見方の角度を変えて、こんなダウンサイジングもしてみましょう。

「今日、上司は機嫌が悪かった?」

 被害者モードを極力そぎ落として、相手の視点になってみる。そうすれば、上司が機嫌の悪い日には「まぁ、上司もこんな嫌なことを言いたくなるのかな」という理解になります。この時点であなたの中の自分を責めるような気持ちはずいぶん小さくなっているでしょう。さらには「上司が機嫌が悪そうなときには、なるべく近づかないようにしよう」と、今後の対策までできると、警戒心は薄れ、嫌な記憶の色合いはぐっと薄くなる。

「あの上司、また、機嫌悪いのかぁ。仕方ないなぁ」なんて思えたらこっちのもの! (C) PIXTA
「あの上司、また、機嫌悪いのかぁ。仕方ないなぁ」なんて思えたらこっちのもの! (C) PIXTA

 このようなプロセスを上手に行うのがカウンセリングです。クライアントさんが自らの経験を語り、「物語化」するという段階で、かなりのダウンサイジングが可能になる。すると記憶のイメージもがらりと変わってくるのです。

1回では効果は出ない。繰り返し行おう

 この記憶ケアは、「手書き」がおすすめです。手書きにすることで、意識が作業そのものに向き、より感情の勢いを落としやすくなります。

 クライアントにやっていただいて、「効果が薄いな」と思ったのは、「パソコンに書いてすぐに消す」というやり方。やはりしばらくカタチとして残しておくほうが、原始人モードとしても「外部記憶に残したから安心していい。忘れていい」と思えるようです。冷静になったころに読み返して「もういいや。消しちゃえ」と思えたときに消すのがベストです。

 大切なポイントは、「1回で忘れられると思わない」こと。記憶のメカニズムは生命の危機と直結しているので、相当、手ごわいのです。

 そもそも人の心はゆっくりしか変化していきません。急に調子がよくなった、というクライアントさんがいると、私は「揺り戻しがくる」と用心します。

 「これで記憶の色を薄めるぞ!」と過剰な期待をかけずに「ちょっと楽になるために、やってみるかな」ぐらいのスタンスで続けてみてください。繰り返し行ううちに、ある時「もう忘れられないと思っていた記憶」が本当に薄れていることに、気付けるはずです。

文/柳本 操 イラスト/PIXTA