恋愛や結婚へのハードルが上がり続ける社会

古市:僕はこれはこれで楽しいからいいんですよ。でも考えたら僕の周り独身ばっかりで、子どももいない人ばっかりで。これでいいんですかね?

深澤:恋愛・セックス・結婚・子ども。これらに対するハードルが高すぎるから、「してもいいかな」っていう人さえ、できなくなってると思う。

古市:どれもうっかりできない雰囲気がありますよね。

深澤:うっかりやってもいいと思うんですよ。

 もっと適当でもいいし、「セックスは月1くらいでいい」とか、「お互いにひとり分食べられるくらい稼げればいい」とか、「子供も預けながら育てればいい」とか、いろいろと価値観をゆるくしていかないとなかなかできない。

古市:それはあるかもしれない。

深澤:私が女オンチになったのは、私だけが悪いんじゃなくて(笑)、社会の要求水準が上がっちゃったのも大きいと思う。

古市:たしかに、何もかも基準が上がりすぎちゃってるよなあ。

深澤:私はその高度な要求に応えられないから女オンチに落ち着いたし、あなたもその要求に応えない男オンチなんだけど、多くの男性とか女性はその要求に応えられないことで、未婚化とか少子化のほうにいってしまった。

古市:そんなにいろいろな要求には応えきれないよね。

深澤:しかも、古い価値観はそのままだからよけいに大変。私がいまだに言われるのが、「男は立てたほうがいい」ってこと(苦笑)。

古市:ええーっ!深澤さんにそんなこと無理に決まってるじゃないですか。

深澤:そう、私には無理! 昔から「男を立てる」ことをしたことがない。なんでそんなことをしなくちゃいけないのかなって、本当に思っちゃう(笑)

古市:深澤さんに立ててほしいなんて思う男がいるのかな(笑)

深澤:男が相手でも平気でバカにしちゃうから、ものすごく怒りを買ってきたわけですよ。「男を立てない」まま今日に至って、こんな感じになってしまった。

古市:うん。それでも生きていけるってことが証明できて、よかったじゃないですか。

深澤:またバカにしてるね(笑)。まあ、「男にお酌しろ」とか言われても、できないから。

古市:それはそれでもすごいですよね。ポリシー? そこまでいくと。

深澤:ポリシーというか、「できないことはできない」っていうだけなのかも。あなただってできないことあるでしょ?

古市:でも僕、いろいろ…できてると思うんだけど。

深澤:できてるかなあ。だってお酌とかしないでしょ?

古市:しない。でも気付いたら入ってる(笑)

深澤:だから私もあなたもポリシーでお酌しないわけでじゃなくて、できないだけ。

古市:気付いてもいないってことか。

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Profile
深澤真紀(ふかさわまき)
コラムニスト・淑徳大学客員教授。1967年、東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。卒業後、いくつかの出版社で編集者をつとめ、1998年、企画会社タクト・プランニングを設立、代表取締役に。日経ビジネスオンラインで2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞し、国内外で話題になる。『女はオキテでできている―平成女図鑑』(春秋社)、『輝かないがんばらない話を聞かないー働くオンナの処世術』、津村記久子との対談集『ダメをみがく――”女子”の呪いを解く方法』(紀伊國屋書店)、『日本の女は、100年たっても面白い。』(ベストセラーズ)など著書も多数。
古市憲寿(ふるいちのりとし)
1985年東京都生まれ。社会学者。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した著書『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)などで注目される。 日本学術振興会「育志賞」受賞。著書に日本社会の様々な「ズレ」について考察した『だから日本はズレている』(新潮新書)などがある。最新刊の 『保育園義務教育化』(小学館)では、女性が置かれた理不尽な状況を描き、その解決策を示す。

文/西山武志