本サイトでも人気だった連載「深澤真紀の女オンチ人生」を発展させ、女オンチに「男オンチ、社会オンチ」までをテーマにした書籍が、来月、刊行されることになりました。対談相手として加わったのは、若手の社会学者、古市憲寿さん。「女オンチ、男オンチ、恋愛オンチ、社会オンチ」について、語り合いました。

今回のテーマは「今の世の中は“悪い”のか」です。

深澤:「古市くんがネットやテレビで炎上するたびに思うのは、この人は「余計なことを言う楽観主義者」だなあということ。私にも同じようなところがあるから、炎上することがめんどうくさくて、なるべくそれを発言しないようにしてるんだけど(笑)

古市:そんなに余計なこと言ってるかな(笑)

深澤:私たちは「今の世の中はそんなに悪くない」「今の若者はそんなに悪くない」ということをずっと言ってるでしょう。

古市:だってそうだし。

深澤:そうなんだよね。「長い人類の歴史の中では、今はずいぶんマシな時代だ」と思っている楽観主義者だし、「なんでそれがわからないの?」と思うから古市くんはつい余計なことを言ってしまう(笑)

古市:余計なことなのかなあ。

深澤:たとえば、保守だろうとリベラルだろうと、「このままでは日本は終わりだ」って悲観したがる人が多すぎる。

古市:そう、なんでみんなこの世の終わりみたいな顔をしたがるんだろう。歴史の教科書読めば一瞬でわかるけど、どう考えても、今より悪い時代ばっかりじゃないですか。

深澤:「今、自分が生きている時代が最悪だ」って思いたがるのは、「ドラマティック願望」の一種だから、そのほうが気持ちいいんでしょうね。だけど古市くんも私も、自分の人生と社会をドラマティックにしたいとは思っていない。

古市:思ってない、めんどうくさいし。

深澤:「今の日本は、戦後最悪である」っていうニュースは、子どもの頃から聞き続けてる。そして老人になってもたぶん同じことを言い続けるでしょう。

古市:まあ、いつの時代もどう切り取るかで、いい面も悪い面もあるわけだからね。

深澤:もちろんその時代ごとに個別の問題はあるし、今の時代にもたくさんの問題はあるけど、「すべてを最悪」と言い切るのはおかしい。むしろ最悪だと思ってしまうことで、希望を失ってしまう若者だって多いから、逆効果だと思う。

古市:そう。そんなにひどくない。少なくとも江戸時代とかよりはよっぽどマシでしょ。飢饉の心配とかしなくていいし!

深澤:寿命むちゃくちゃ伸びてるし! 私たちの「ドラマティック願望」が低いのも、オンチだからかもしれない。

「どこに所属してるかよくわからない」

古市:オンチってことは、つまりイデオロギーからも自由ってこと?

深澤:イデオロギーから自由にはなれないでしょ。単純にイデオロギーに対してもオンチなのかも。

古市:イデオロギーという楽譜が読めないから、上手に歌えないってことかな。

深澤:そうかもしれない(笑)。だから、「深澤さん、どういうイデオロギーですか?」って言われたら、「クソ左翼のクソフェミニストのクソリベラルです」だって答えています。

古市:「クソ」って言い過ぎ。

深澤:左翼だってフェミニストだってリベラルだって、必要悪みたいなものでしょう。だからクソをつけて自戒しないと、危ないなと思ってる。

古市:ああ、自戒なんですね。

深澤:古市くんもよく「あなたは左なのか右なのか」って、迫られてるよね(笑)

古市:あれなんなんですかね。なんでみんな、あんなに踏絵のようになんかどっちかにしたがるんだろう。右か左かって、そんな簡単に分けられないでしょ。

深澤:以前古市くんに「深澤さんって、どこに所属してるかよくわからない」って言われたでしょう。

古市:言ったかもしれない。