賃貸の安アパートであっても、自分が稼いだお金で住処を維持しているという事実が僕を支えていたのです。愛する女性にはその家に住んでほしい。

 結婚生活は足りないものを補い合うものなので、「誰の家に住むか」なんてあまり意味のないことですよね。でも、僕はこのこだわりを克服できていません。いま住んでいる愛知県でもマンションの家賃だけは僕が出しています。だからこそ、出張で空けがちな自宅に久しぶりに帰って来てもゆったりとした気分で寛げるのです。アメリカで生まれ育った慶子さんには意味不明な感覚ですよね……。

 「彼はとにかく私に何かを買ってくれたがるんです。『どうしてそんなに安いものを欲しがるの?』とよく言われました。欲しいものがあれば自分で買います。ちゃんと働いていてくれさえすれば、恋人の収入はいくらでも構いません。人の存在価値は収入では決まらないはずだから」

 慶子さんを好きだからこそ、「強い男」でありたいと願うヨウイチさんは最後の手段に出ました。より待遇のいい有名企業への転職を果たしたのです。ただし、その会社のある地方都市で住み働くことが入社の条件でした。

 「すべてをリセットしてオレについてきてくれ、と言われました。私は今の仕事が好きなので、簡単に辞めたくはありません。ローンを払い終えているマンションもできれば手放したくない。彼には謝って別れることにしました。私のためにあんなにがんばってくれたことは嬉しいような悲しいような気持ちです。私じゃない女性とだったらもっと伸び伸びと生きられたんじゃないか、と申し訳なく思っています」

 別れはどんなときも悲しいものですが、「申し訳ない」と感じる必要はないと思います。ヨウイチさんにとっては慶子さんは常に憧れの存在だったのではないでしょうか。16年間も恋人として付き合えたことはヨウイチさんの人生の宝物です。慶子さんのおかげで転職もできました。もうしばらくすれば、立派になったヨウイチさんはかわいらしい女性と結婚する気がします。

 では、慶子さんのほうは今後どう過ごしていくのでしょうか。実は、ヨウイチさんと別れてから半年後に出会いがありました。続きはまた明日。