「彼は母子家庭で育って苦労したのでお金にはシビアなんです。それはいいけれど、私の車にまでケチをつけるのはやめてほしい。思い入れのある車を大事に使っているのに、燃費が悪いからアクアに買い替えろ、なんて。余計なお世話ですよね」

 タケユキさんに対する不信感が高まっていた宏美さんは、以前よりも彼のことを冷静に見られるようになったようです。ただし、「高収入で頼りがいのある男性に養ってほしい」という願望がありながらも、「自分が稼いだお金でガソリン代を出して乗っている車なのだから干渉しないでほしい」と感じるのは少し矛盾しているかもしれません。

 久しぶりの日本での再会。気持ちが離れかけていた宏美さんに対して、タケユキさんはまたしても豪速の変化球を投げ込みました。

 「キミの実家近くに家を建てようかな」

 これには宏美さんは面食らいます。同時に、期待も膨らみました。宏美さんは長女であり、絆の深い家庭で育ったので、いつか実家に戻りたいという意思を持ち続けています。タケユキさんは次男。宏美さんの家の婿養子になってもかまわないと言ったこともありました。

 一方で、直球ではないプロポーズに宏美さんは幻滅もしました。どうして素直に「俺と結婚してくれ」と言えないのか。ちっとも男らしくない、ガッカリしたのです。

 様々な思いがよぎり、ただでさえ口下手な宏美さんはタケユキさんの言葉を聞き流してしまいました。もちろん、忘れたりはしません。後でゆっくりと反省し、丁寧なメールを送りました。実家の近くに家を建ててくれるなんて嬉しすぎて何も答えられなかった。ご厚意をむげにしてごめんなさい、と。

 宏美さんのほうにも問題はあると僕は思います。本当にタケユキさんと結婚したいのであれば、「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」と返して、両親に彼を紹介するなど結婚話を具体的に進めるべきでしょう。

 「その後、彼は福岡に異動になりました。『キミも福岡に転勤できる?』と聞かれましたが、結婚したとしてもすぐには無理ですよね。それで彼との連絡も途絶えがちになり、いまではたまにLINEでやりとりしているだけです」

 タケユキさん、転勤できるかどうかではなく、ちゃんと宏美さんと向き合うことが先決でしょう。あなたの不誠実な行動はとっくにバレていますよ! すみません、つい声を荒げてしまいました。続きはまた明日。