岡さん 日本の病理学者、山極勝三郎博士は、1915年に世界で初めて人工的にがんを作り出すことに成功したのですが、彼は、煙突掃除夫に皮膚がんの罹患者が多いことに着目して、すすの成分であるコールタールをウサギの耳にひたすら塗り続ける実験を行いました。ほかの研究者が半年、1年であきらめる中、彼は3年間コールタールを塗り続け、世界で初めて人工的にがんを発生させることに成功しました。コールタールが発がん性物質だということを明らかにしたわけです。

 コーヒーは真っ黒だし、焙煎して焦がすから、何となくコールタールに似ていますよね。コーヒーは発がん物質に違いない、という考えが世の中に広まって行ったのです。

調べ始めたら、実は「カラダによかった!」

岡さん コーヒーは欧米を中心に多くの人に飲まれていましたから、当然、コーヒーのカラダに対する影響を調べる研究も盛んに行われました。そして実際に研究を進めたところ、出た結果は逆だったのです。つまり、コーヒーはがんだけでなく、生活習慣病を防ぐし、パーキンソン病などの神経疾患も予防するようだ、といったポジティブな研究成果がどんどん発表され始めたのです。

 私が研究テーマをコーヒーに絞ることに決めたのは2004年のことです。当時、コーヒーが健康にいいという研究が世の中に出始めていて、そこに関心を持ったわけです。

 2002年には、オランダのヴァン・ダム教授らが「コーヒーを1日7杯飲む人は、1日2杯以下の人に比べて2型糖尿病の発症リスクが50%下がる」という報告を出しました。同教授の追跡調査によって、「コーヒーを1日6杯まで飲んだ人でも、がんや心血管疾患などあらゆる原因による死亡リスクには関係しない」という結果が出ています。

 2005年には、日本の国立がん研究センターから「コーヒーをよく飲んでいる人は肝臓がんの発症率が低い。1日5杯以上飲む人は肝臓がん発生率が4分の1になる」という発表も出ました(次回で詳しく紹介します)。

 「コーヒー悪者説」は、このように続々と明らかになる研究成果によりひっくり返されることになるのです。今では、医者の間でもコーヒーの健康効果は広く認知されるようになりました。例えば、肝臓関係の医師なら、コーヒーは肝臓にいい効果を及ぼすから、1日1~2杯程度を飲むことを勧めるという人が増えました。