このほか、免疫異常を正常化する作用も見られる。落語鑑賞をする前後で関節の炎症を悪化させるインターロイキン6と呼ばれる免疫成分の数値を測定。すると、健康な人の数値はほとんど変化しなかったのに対し、インターロイキン6の値がもともと高かった関節リウマチ患者については数値が大幅にダウンした(※2)。

 また、コメディー映画を観て笑った後には、免疫の正常化によりアレルギー反応が減少したというデータもある。8名のアトピー性皮膚炎の患者をコメディー映画を観てもらうグループと天気予報を観てもらうグループに分け、その前後で皮膚に塗ったアレルギー原因物質によるアレルギー性紅班反応の強さを観察した。その結果、コメディー映画を見たグループは天気予報を見たグループに比べて、明らかにアレルギー反応による皮膚反応が減少していた、というものだ(※3)。

認知症予防や血糖値抑制にも笑いが効く!

 さらに、笑いによって認知症の予防効果も期待できると永井さんは言う。大阪府Y市で2007年度循環器健診を受診した65歳以上の男女985名を対象に認知機能を調査し、笑いの頻度との関係をみた研究がある。それによると全体の26%に認知機能の低下が見られ、笑う機会の「ほとんどない」人は「ほぼ毎日笑う」人に比べて男性で2.11倍、女性で2.60倍認知機能低下症状を持つリスクが高かったという(※4)。

 ただし上記の調査では、認知機能の低下により笑いの頻度が少なくなったのか、笑いの頻度が少ないことが認知機能の低下を招くのかが明らかでなかったため、上記調査で認知機能の低下が見られなかった738名に1年後に同じテストを実施。その結果、笑う機会が「ほとんどない」人は「ほぼ毎日笑う」人の3.61倍認知機能が低下するリスクが上昇していた(※4)。

 こうした結果を裏づけるように、笑いによる脳の血流量増加も実証されている。リハビリテーションを兼ねて開催された「病院寄席」を観た22名の脳疾患患者を対象に、笑いの脳血流に対する影響を調べたところ、落語が面白くて笑った人は血流量が増え、面白くないと感じ笑わなかった人は、血流量は増えなかった。「笑いは、認知症の要因のひとつとして挙げられる脳の血流量減少にも歯止めをかけてくれる」と永井さんは言う(※5)。


※2 インターロイキン6低下
1.吉野槇一:笑いの治癒力―脳内リセット理論に基づいて、臨床精神医学、32、953-957、2003
2.吉野槇一、中村 洋、判冶直人、黄田道信:関節リュウマチ患者に対する愉しい笑いの影響、心身医学、
36、559-564、1996
3.吉野槇一:脳内リセット・笑いと涙が人生を変える(主婦の友社)2003

※3 アレルギー皮膚炎
1.木俣肇:アトピー性皮膚炎における笑いの効果、ストレスと臨床、10、33-37、2001
2. Kimata H, : Effect of humor on allergen-induced wheal reaction , JAMA, 285, 738, 2001

※4 認知症
1.大平哲也:笑って認知症を予防できるか、Aging & Health, 1, 20-23, 2014
2.大平哲也 ほか:笑い・ユーモア療法による認知症の予防と改善、老年精神医学、22、32―38, 2011
3.大平哲也:認知症予防を目的とした笑いの効果についての実践的研究、日本生命財団研究報告書
(2009)
4.大平哲也:不安・緊張に対する笑いの効果についての研究・森田医学の予防医学への応用に関する検討、
メンタルヘルス岡本財団研究助成報告書、15,19-22、2004

※5 脳血流量増加
1.中島英雄 「笑いの処方箋」(法研) 1997
2.中島英雄 「病気が治る;病院のおかしな話」(リヨン社)2001