人間関係のストレスを軽減する効果

 マインドフルネスは、リラクゼーションの一種として取り上げられることがあるが、それは誤りだ。リラクゼーションは、現実から離れて心身をリラックスさせるもの。それに対して、マインドフルネスは今を見ることだ。だから、リラクゼーションとは違って、ときには嫌なものに注意を向けることもある。

 そんなとき、嫌な事柄も“淡々と”受け止めて、その中に埋没しなくなっていくのも、マインドフルネスに期待できる効果の一つだ。

 マインドフルネスという「心の筋トレ」で、淡々と戻る筋肉を鍛えることができれば、組織における人間関係のストレスも軽減できる

 たとえば、社内の会議で、いつも自分に対して嫌味な発言をする人物がいるとする。こんなとき、「また何か言われるかもしれない。どうしよう」と不安に思っている限り、ストレスはたまる一方で、精神的にいいことは何もない。

 だが、「マインドフルネス瞑想で心の筋肉を鍛えることによって、そんな中でも、今、何が大切なのかに思いが至るようになれば、ストレスは格段に減ります」と越川さんは言う。

何を言われても平然としていられる余裕が生まれる

 「現時点でのよりよい結論を得るために、この会議が開かれている」ということに気づくことで、嫌味な発言から感情的な要素を抜いて必要な情報を淡々と受け取ることができるわけだ。そうしたことを続けるうちに、「今日は、あの人はいったいどんなことを言ってくるのかな」と好奇心をもって耳を傾ける余裕も生まれるという。

 「他人に言われることだけでなく、自分でも、たとえば会議などで発言した後、『あ、馬鹿なことを言ってしまった』『こう言えばよかった』などと思い煩うことがありますよね。マインドフルネス瞑想によって心の筋肉を鍛えれば、そういったことからも解放され、今自分がすべきこと、たとえば会議なら会議に集中できるようになります」(越川さん)。

 つまり、マインドフルネスによって、過去の嫌な発言を思い出すのでもなく、未来にどんな発言をされるのかを思い煩うのでもなく、「今どうすればよいか」という方向に思考が向いていくのである。

 「ポイントは、自分にも他人にも思いやりや好奇心をもって、今起こっていることを見ることです。これまで私たちは、効率や人より優れることを求められてきました。うまくできないことがあると、自分を叱ったり、他人を非難しないと次の一歩が出せないと勘違いしている人が少なくありません。でも、自分をいじめたり、人を非難したりしても何にも生まれないのです」。

 マインドフルネスは、創造性を養うのにも役立つという。

 「人間というのは、自分に合わない考え方や発想を受け入れにくく最初から無視や拒絶をしがちです。でも、マインドフルネスで心の筋肉を鍛えれば、無視や拒絶をせずに何が起きているかを好奇心をもって見るようになります。そうなると、それまでの自分が持ち合わせていなかった、新しい価値観や材料が手に入れられるはず。それは、新しいものをつくるための着想に間違いなく役立ちます」。