心の傷を負った人を孤立させないのが一番の予防策

――専門家でない周囲の人たちは、どうすれば気付くことができるでしょうか。

重村さん PTSDを見分ける難しい点は、周囲の人が気付きにくいところにあります。本人は、「誰とも関わり合いたくない」という気持ちになっているために、周囲から孤立しがちです。SOSを発しないまま、何年も経過してしまうことさえあります。

大事なのは助け合い(©bacho12345 123-rf)
大事なのは助け合い(©bacho12345 123-rf)

 多くの場合、PTSDは単独で表れるのではなく、うつや不安症状を伴います。そうした症状によって、周囲に気付かれるというケースがよくあります。

 ですから、全体的な不調がないかどうか、周りがよく見ていく必要があるのです。そうして早い段階での対策を行えば、悪化を防止できます

 実際、東日本大震災の被災者の追跡調査でも、地域のつながりが弱い人はつながりが強い人に比べ、心の健康状態が悪くなる割合が4倍以上も高くなることが報告されており、近隣住民などとの助け合いは非常に重要です。

 不眠の症状は、比較的、外から見ていても分かりやすいので、そうした症状が続くようでしたら、積極的に病院に連れて行ってほしいと思います。

 PTSDの対応は精神科になりますが、とくに地方では「精神科」と聞くと抵抗感を持つ人が多いのが実情です。また、PTSD専門の先生も多くありませんので、まずはかかりつけの先生に相談するのがいいと思います。心の健康の程度によって、専門の先生に紹介してくださることと思います。


――PTSDが疑われる人に対して、周囲はどのように接するのがいいのでしょうか。

重村さん 先ほどのように、「自分だけが生き残って申し訳ない」と考えているようならば、例えば「あなたは精一杯のことをやったよ」と声をかけてあげるのがいいでしょう。

 孤立しないように、「いつでも相談してね」「必要なときには私たちがいるから心配しないで」と声をかけるのも効果的です。

 また、本人は自分の考えから抜け出せなくて落ち込んでいますから、そこに他人からの視点を加えることも大切です。「私だったらこう考えるよ」という言い方も効果があります。

 まったく別の件ですが、夫のDVで苦しみながらも別居や離婚に踏み切れない女性の相談を受けることがよくあります。そんなとき、別のDVのケースを紹介して、「この方はどうしたらよいと思いますか?」と尋ねてみます。すると、その女性は「そんな男とは早く別れればいいのに!」と言ったあとで、ようやく自分のことを冷静に見つめることができて、踏ん切りがつくという例があるものです。

 第三者の視点から自分を見るように仕向けることは大切です。