「つらいのはあなただけじゃない」が一番つらい

――逆に、周囲が言ってはいけないという「NGワード」はありますか。

重村さん 「みんなが頑張っているから、あなたも頑張れ」と言われると、ますます苦しくなります。本人は精一杯頑張っているのに、まだ頑張りが足りないのかと感じるのです。

 「つらいのはあなただけじゃない」というのも避けるべきことばです。周囲はよかれと思って言った言葉かもしれませんが、本人にとっては苦しみを深めるだけの結果になりかねません。

 また、「いつまでも泣いていると、死んだお母さんが悲しむ」というのは、本人と近い関係の人が言いがちな言葉ですが、これも避けてほしい言葉です。被災した本人が言うのならともかく、他人が言うべきではありません。もし、本人がそう言ったのならば、先ほど書いたような「あなたもは精一杯のことをやったよ」「いつでも相談してね」といった声がけをしてあげてください。


――PTSDと診断された人には、どのような治療を行うのですか。

重村さん 治療法はいろいろありますが、大きく分けて次の2つがあります。

1.精神療法
 いわゆるカウンセリングのことで、いろいろなことを話し合いながら「こういう風に考えてみよう」「こういう風に行動してみよう」と医療者がアドバイスをしていきます。また、PTSDに特化した治療法として認知行動療法と呼ばれるものがありますが、これはまだ専門家が少ないのが実情です。

2.薬物療法
 PTSDに効果がある薬として、パロキセチン、セルトラリンという2種類の選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)が認可されています。どちらも、もともとは抗うつ薬として認可されていたものですが、東日本大震災後にPTSDにも効果があるとして認可されました。


――救援者、支援者へのケアは、また被災者とは違うのですか。

重村さん 実は、警察、消防、自治体関係者など、救援者や支援者のPTSDのリスクは、被災者よりも大きいのです。2001年に発生したニューヨークの9.11同時テロでも、2~3年後にPTSD症状が見られた救援者は12.8%にも上りました。

 仕事上でPTSDになった方々は、仕事のなかで癒していくことが必要となります。ですから、一緒に働く人たちの理解が欠かせません。とくに権限をもつ上司の配慮は大切です。PTSDをはじめとして心の不調が見られる人には、適切な配置転換や労働時間短縮を図ってほしいと思います。

 加えて、そうした人たちが頑張ったことを、会社や組織が認める姿勢を見せることも大切です。たとえば、みんなを集めて報告会を開いたり、功労の大きな人を表彰するというのもいいでしょう。表彰された本人だけでなく、参加した人たちみんなが「自分たちの苦労をきちんと見てくれている」「大変な仕事だったが、やったかいがあった」と受け止めてくれるからです。これがあるだけで、PTSDのリスクを減らすことができます。