近い将来、科学的根拠に基づいた食習慣アドバイスが可能に!?

 「現段階では、おなかにいいといわれているものを実際に食べてみて、自分でいいと実感できることを続けてみるしかありません」。

 ではどんなものがおなかいいといわれているのか。これに関する詳細は、同シリーズの第4回目で詳しく紹介するのでお楽しみに。

 話を元に戻すと、今なぜ腸内フローラなのか。腸内フローラのことが分かると、私たちにとってどんないいことがあるのだろうか。

 実は福田さんは慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)発のベンチャー企業メタジェンを2015年3月に設立、その代表取締役社長CEOを務めている。メタジェンは人の便を分析することで、腸内細菌やそれらが作り出す代謝物質が私たちの体にどのような影響を与えているかを解明、それらの情報を健康維持に役立てるサービスにつなげようとしている会社だ。

 「僕たちは今、どういう腸内フローラの人が、どういう食べ物を食べると、腸内環境がどう変化するかというデータを集めています。日本人の腸内環境の特徴をいくつかのクラスターに分けることができれば、そのクラスターごとに、腸内環境にいい可能性の高い食べ物をお薦めすることができる。こうした科学的根拠に基づいた食習慣改善アドバイスの提供を、2年後を目処に始めることを目指しています」(福田さん)。

取材にご協力いただいたメタジェンの方々。左より主任研究員の村上さん、CEOの福田さん、技術顧問の井上さん。パソコン画面上の副社長CTOの山田さんはオンラインで参加してくれた
取材にご協力いただいたメタジェンの方々。左より主任研究員の村上さん、CEOの福田さん、技術顧問の井上さん。パソコン画面上の副社長CTOの山田さんはオンラインで参加してくれた

 福田さんたちは、便から腸内フローラを含む腸内環境を網羅的に解析し、その人に合わせた健康情報をフィードバックすることで腸内環境を適切に制御することを“腸内デザイン”と呼んでいる。

 「食べ物が健康を維持するために大切なことはみなさん体感としてご存じだと思いますが、巷にあふれる情報に惑わされているのが現状。正しい情報を提供し、その結果どうだったかをきちんと評価し続けていけば、結果的に病気予防につながるんじゃないかと。将来的には病気ゼロの社会を作りたいと思っています」(福田さん)。

 大腸がん、大腸炎、肥満、糖尿病、動脈硬化、花粉症、食物アレルギーなどの発症は、腸内フローラのバランスの乱れと関連があると考えられているため、この“腸内デザイン”は非常に注目されている。

この人に聞きました
高妻容一
福田真嗣(ふくだ しんじ)さん
メタジェン代表取締役社長CEO/慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授
1977年生まれ。明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。学位取得後、理化学研究所研究員として勤務し、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2011年にビフィズス菌による腸管出血性大腸菌O157:H7感染予防の分子機構を世界に先駆けて明らかにし、2013年には腸内細菌が産生する酪酸が制御性T細胞の分化を誘導して大腸炎を抑制することを発見、ともに「Nature」誌に報告。2015年、メタジェン(慶應義塾大学と東京工業大学のジョイントベンチャー)を設立。著書に『おなかの調子がよくなる本』(KKベストセラーズ)。

文/村山真由美

日経Gooday「善玉菌、悪玉菌と単純には分けられない!“腸内フローラ”の真実」を転載

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