菌が生きて腸に届くことは重要?

 多くの乳酸菌は通常は胃酸や胆汁酸に晒されるため、腸に届く前に死んでしまう。ヨーグルトには、「高生存性」「生きて腸まで届く」といったコピーがよく使われているが、生きて腸に届くことは重要なのだろうか。

 「繰り返しになりますが、外来の菌は簡単には腸に定着できません。もちろん一時的に腸内フローラのバランスを変えることはできるかもしれませんし、生きて腸に届き発酵を促すことでよい効果を発揮する場合には、生きて腸に届かないと効果は得られませんが、腸に届くけれど何もしないで出てくる、という菌もいるでしょう」(福田さん)。

 また、乳酸菌をとると、免疫力アップを期待できるという話は前述したが、免疫組織を刺激するのは、菌の外膜成分や菌細胞の中にあるDNAやRNAなど。つまり、菌の構成成分だ。「ですから、免疫力アップに限れば、乳酸菌は死菌でも効果があると考えられます」(福田さん)。

 さらに、死菌を構成している成分は、生菌や常在する腸内細菌のエサになる場合もある。つまり、「生きて腸に届く」かどうかにことさら神経質になる必要はなく、むしろその摂取効果を実感できるかどうかが重要ということだ。

 ここまでの話をまとめると、腸内フローラのバランスをよくするためには、以下のようなことに気をつけるといいようだ。

【腸内フローラのバランスをよくする食べ方】
●腸内細菌のエサになる食物繊維(穀類、イモ類、豆類、野菜、きのこ、海藻、果物など)をとる
●なかでも、腸内細菌が分解しやすくエサにしやすい水溶性食物繊維が豊富な食品(大麦や海藻など)を積極的にとる
●ヨーグルトだけでなく乳酸菌のエサになるオリゴ糖も一緒にとる
●ただしこれらは自分の腸にあったものを探して、毎日とり続ける必要がある

 腸内フローラは少しずつではあるが食生活で変えられる。変えることのできる臓器のひとつだ。長期戦を覚悟して、食生活を改善していこう。

この人に聞きました
福田真嗣
福田真嗣(ふくだ しんじ)さん
メタジェン代表取締役社長CEO/慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授
1977年生まれ。明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。学位取得後、理化学研究所研究員として勤務し、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。2011年にビフィズス菌による腸管出血性大腸菌O157:H7感染予防の分子機構を世界に先駆けて明らかにし、2013年には腸内細菌が産生する酪酸が制御性T細胞の分化を誘導して大腸炎を抑制することを発見、ともに「Nature」誌に報告。2015年、メタジェン(慶應義塾大学と東京工業大学のジョイントベンチャー)を設立。著書に『おなかの調子がよくなる本』(KKベストセラーズ)。

文/村山真由美=フリーエディタ―・ライター

日経Gooday「ヨーグルトは必ず食べるべき? 腸内環境研究者が明かす腸にいい食べ方のコツ」を転載

この連載は、毎週火曜日に公開。下記の記事一覧ページに新しい記事がアップされますので、ぜひ、ブックマークして、お楽しみください!
「日経グッデイ・最新カラダのはなし」