この連載では、毎週火曜日に健康・医療専門サイト「日経Gooday」編集部の取材から、元気になる最新のカラダの話をお届けします。

 夏といえば「蚊」。うっかり刺された後のかゆみは本当に不快です。寝苦しい夜に、耳元でうるさく鳴り響く羽音に起こされた人も少なくないでしょう。よく血液型によって蚊の刺されやすさが違うなどと話題になりますが、蚊は人を選んで吸血しているのでしょうか? 蚊の生態に詳しい国立感染症研究所・昆虫医科学部主任研究官の津田良夫先生は、「蚊はさまざまなセンサーを使って、血を吸うか判断しています」と話します。

血を吸うのは卵を作るメスだけ、満腹になれば刺さなくなる

(©tribalium123-123rf)
(©tribalium123-123rf)

 蚊が動物を刺すのは、血を吸うため。なぜ血を吸うのかといえば、たんぱく質などの養分から卵を作るためです。したがって、血を吸うのはメスだけで、オスは花の蜜や果実の汁などの糖分を摂取してエネルギー源としています。

 ちなみに蚊は1回の吸血で、体重が2~3倍になります。蚊1匹の体重は2~2.5mgですから、満腹の蚊の重さは4~7.5mg。吸った血が重たすぎて飛べなくなった、フラフラの蚊を見たことはありませんか。うまく血管を刺してスムーズに吸血できると20~30秒程度、刺す場所や血液の出が悪いと数分間とまっていることもあります。

 血を十分に吸ってお腹が一杯になると、消化して卵を作るまでの3日ほどは、動物に見向きもしなくなります。その後、4~5日で卵を産んだ途端に、また血を吸うようになります。

 病気にかかった人からメスの蚊が血を吸い、吸った血に含まれる病原体が蚊の唾液に混ざって別の人に病気をうつす可能性があります。蚊が伝播する病気については、「無防備なアナタは知らぬ間に蚊から病気をうつされる」を参考にしてください。

蚊はさまざまなセンサーを使って「吸血するか」を判断する

 蚊に刺されやすいのはどんな人か―。よく話題になることですが、蚊の吸血行動には複雑な仕組みがあり、一概に「こんな人が刺されやすい」というのは難しいもの。蚊にとって血が吸えるかどうかは死活問題で、とても重要なことです。そのため、吸血源を感知するいわゆるセンサーが1つだけでは、とても対応できません。

 もし、視覚だけに頼っていると暗闇では分からなくなりますし、聴覚だけを頼りにしていると騒がしい場所では分からなくなります。ですから、いろいろな状況に対応するため、さまざまなセンサーを使っているのです。

蚊が人に近づき、血を吸うまでに3段階ある

 蚊が吸血源の人を感知し、血を吸うまでのステップは大きく3つに分けられます。まずは、遠い距離から人の存在に気づく段階。その次は、人に近づいた段階。そして、人の皮膚の上に乗る段階です。このステップに合わせて、複数のセンサーを使い分けていると考えられます。

 例えば、長距離では二酸化炭素を感知するセンサーや、気圧のセンサー、視覚、聴覚などを使って、あのあたりに吸血源動物がいそうだなと感知します。

 吸血源に近づいたときには、体から発散される熱やにおいのセンサーなどが使われ、皮膚に乗ったときには、汗に含まれる水分や化学物質、体温や湿度などのセンサーが使われます。蚊はこうしたさまざまなセンサーを使って、吸血すべきかどうかを判断しているようです。


【蚊はさまざまなセンサーを駆使して吸血するかを判断している】
二酸化炭素・視覚・嗅覚・湿度・温度 など


 どの要素が重要かは、蚊の種類によって異なりますが、多くの蚊が使っているのが、二酸化炭素ガスのセンサーです。感度は蚊の種類によって違うようで、人をよく刺すヒトスジシマカは、人の周囲3~6メートル程度でも感知できるといわれています。