多発性硬化症の発症は20~30代の女性に多い
――多発性硬化症はどんな人に発症しやすいのでしょう。
大橋:多発性硬化症の患者数は全世界で約230万人といわれています。欧米に多い疾患ですが、日本では約1万4000人の患者さんがいると報告されています。20~30代での発症頻度が高く、男女比は1:2~3で、女性の方が多いのも特徴です。
多発性硬化症の発症には遺伝子の関与が分かっているものの、病気そのものが遺伝するわけではありません。環境など、外的な要因も関わってきます。
例えば、EBウイルスがその一例です。EBウイルス自体はありふれたウイルスで、日本人の場合は3歳までに約70%が感染し、成人では約90%の人がすでに感染しているといわれていますが、幼児期ではなく、青年期に感染した人に発症しやすいようです。喫煙や受動喫煙も要因となります。
そのほか、日照時間や紫外線量が少ない地域で患者さんが多く、15歳までに日光を多く浴びていないと、発症率が高まるといわれています。ビタミンDの摂取量が多い人や、血清ビタミンDの濃度が高い人は発症しにくいというデータもあります。また、日本ではMS患者さんが増加しており、食生活の欧米化の影響も示唆されています。
――働き盛りの20~30代で発症することが多いそうですが、もし発症した場合、仕事を続けることは可能なのでしょうか。
大橋:発症の初期では、症状の回復が比較的よく、日常生活や仕事にそれほど支障が出ないことが多いです。再発も1年に1回あるかどうかで、治療をする場合は外来で点滴を受けることが一般的です。ただ、患者さんの症状や体調、施設の環境などによっては、入院が必要になる場合もあります。
再発を繰り返していると、歩行障害や認知機能障害なども進んでくるので、仕事がスムーズに捗らない、覚えられないといったことがあり、就労は難しくなってくるでしょう。
――私たちが心がけておくことはありますか?
大橋:多発性硬化症は1万人に1人程度と、決して多い病気ではありません。そのため、病気そのものが知られていない実情があります。ですから、まずは多発性硬化症という病気があることを知ってほしいと思います。
病気がよく知られていないため、職場で話しづらいという患者さんの声もよく聞きます。発症の初期でも、疲労を感じる患者さんは多く、すぐに疲れてしまう、立ち仕事がつらいなどで休憩が必要でも、怠けていると思われてしまうこともあるようです。見た目には病気だと分からないことが多いため、やはり、周囲の認知・理解が求められます。
東京女子医科大学八千代医療センター神経内科准教授
1988年北海道大学医学部卒業後、東京女子医科大学神経内科入局。93年国立精神・神経センター神経研究所および96年米ハーバード大学医学部で多発性硬化症を研究。公立昭和病院神経内科医長を経て、2002年東京女子医科大学神経内科助手。2006年同大学八千代医療センター神経内科講師、14年から現職。日本神経学会代議員・専門医、日本神経免疫学会評議員、日本多発性硬化症協会医学顧問、認定特定非営利活動法人MSキャビン副理事長。
文/大橋高志=東京女子医科大学八千代医療センター神経内科准教授
聞き手:田村知子=フリーランスエディター
日経Gooday「最近よく聞く“多発性硬化症”ってどんな病気?」を転載
「日経グッデイ・最新カラダのはなし」