聞くことは、視野を広げるトレーニング

 苦手な上司や意見が異なる相手の話を素直に聞けないという人は、もしかしたら「聞く=同意」と捉えているのかもしれません。

 「違う意見を持つ人の話を素直に聞いてしまったら、自分の考えを曲げて相手に同調したことになる」

 こんなふうに考えていませんか?

 相手の主張を素直に聞くことは、言いなりになることではありません。自分とは違う視点や捉え方を知って、「視野を広げる」ということです。

 「聞く=同意」と捉えてしまうと、自分とは違う意見を聞けなくなってしまいます。会話をするたびに、「あなたには賛成できません」とお互いが反発し合い、どちらの主張が正しいのかを決める勝負になってしまうからです。

 前回の記事で詳しくお伝えしましたが、正しさや常識は、時代や状況に応じて変化します。さまざまな考え方がある中で、話をいったん受け止めて聞くことは、相手の意見を尊重することでもあるのです。

 自分とは違う考え方に耳を傾けることは、視野を広げるトレーニングにもなります。そして同意はできなくても、「あなたはそう思っているんですね。理解しました」と伝えることから、相手との対話が始まるのです。

意見は違っても協力できる関係性づくりを

 また、企業の研修をしていると、「みんなが納得する結論を出すにはどうすればいいですか?」という質問を受けることがあります。

 しかし結局のところ、「全員が納得する結論」というものはありません。人それぞれ、立場や経験、考え方などが違う中で、全員一致の答えというものは、基本的には「ない」と思っていたほうがいいと思います。それよりも、意見や考え方が違う中でも、協力して仕事を進められる関係性を目指しましょう。

 例えばAという企画と、Bという企画があった場合。自分はAの企画がいいと思ったけれど、会社としてはBの企画を採用することになった、というケースはよくあります。このとき、Aの企画がよかったと思う気持ちをなくし、心からBの企画を認めることは難しいでしょう。

 このように、無理に人の気持ちを変えることはできません。ですから他人の意見を変えようとするよりも、たとえ考え方が違っていたとしても、前に進むために協力して動ける状態をつくることが大切です。

 人間関係も同じで、すべての人と良好な関係を築くことは難しいと思います。全員とよい関係を築こうとするよりも、苦手だけど協力して仕事を進められる関係性を目指してみましょう。

 「苦手だし、意見も考え方も違う。でも、いざとなったら協同関係を結んで同じ方向に進んでいける」

 こうした関係を築くためにも、まずは相手の話を「聞く」ことを心掛けてみてください。そうして自分自身の視野を広げていけば、少しずつ意見が合わない人の「いいところ」にも目を向けられるようになり、自然と相手に感謝をしたり、ほめたりする機会が増えていくと思います。

*今週の宿題*

 考え方が違う人と話をしたときには、「〇〇さんは×××と思っているんですね」と、相手の主張をいったん受け止めてみましょう。自分の意見を伝えるときは、語尾に注意。「××じゃないですか?」よりも「××じゃないです?」と、「す」で止めたほうが、柔らかい印象になりますよ。

どんな意見の人とも、良好なコミュニケーションが取れるようになるはずです (C)PIXTA
どんな意見の人とも、良好なコミュニケーションが取れるようになるはずです (C)PIXTA

聞き手・文/青野梢 イラスト/北村みなみ 写真/PIXTA