自信のない部下の「折れない心」を育てるには

 「私はこの壁を超えられる」という自信は、仕事をする上でも重要です。では、この自己効力感を高めていくと、どのような変化が表れるのでしょうか。エディ先生に、さらに詳しく教えてもらいましょう。

自己効力感が高まったときの4つの変化

◆エディ先生のワンポイント解説◆

 自己効力感が高まると、下記の4つの変化が表れます。

1. 目標設定が高くなる(認知的過程)……「自分は壁を超えられる」と思えるので、目標設定が高くなります。

2. 結果を出すための努力をする(動機付けの過程)……「自分はできる!」と思っているので、時間や能力、お金など、多くのリソースをつぎ込んで、結果を出すための努力をします。たとえ失敗したとしても、原因は自分の「能力」ではなく、「努力」や「状況」にあったと考えることができるので、「もっと努力をすればいい」「もう一度頑張ればいい」と思い直し、再びチャレンジすることができます。

3. いつでも平静でいられる(情緒的過程)……ストレスの多い環境下でも、平静さを保つことができるようになります。

4. 難しいことに挑戦するようになる(選択の過程)……困難な仕事や苦手な課題に対しても、自分の成長のための勉強だと捉え、前向きに取り組めるようになります。そして、目標が高ければ高いほど「うれしい」というメンタリティーになる傾向があります。

 自己効力感の高い人は、「私は壁を超えられる」と思っているので、自然と目標設定が高くなり、新しいことに前向きです。目標を達成するための努力を惜しまないので、結果も出やすくなります。一方、自己効力感の低い人は、「どうせ私は失敗する」と思いがちなので、予測困難な課題には取り組まない傾向があり、成長の機会を逃してしまう可能性があります。

 発明家のトーマス・エジソンは、「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまくいかない方法を見つけただけだ」という言葉を残しています。また、多くの著名な経営者たちも、「成功の秘訣は、成功するまで続けることだ」という趣旨の発言をしています。

 「成功する途中のつまずきを、失敗ではなくプロセスと考える」

 こうした考え方ができる人は、まさに自己効力感が高い人といえるでしょう。つまり自己効力感を高めると、行動力やチャレンジ精神、そして逆境に強い「折れない心」を育てることができるのです。

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 部下が「折れない心」を持ってチャレンジしてくれたら、上司としてはこれほどうれしく、頼もしいことはありませんよね。

 もしも職場に、なぜか自信がなく自己評価が低い部下がいるなら、その人の自己効力感を高めるためのアプローチをしてみませんか? 一人ひとりの自己効力感が上がれば、本人の成長につながるだけでなく、チームや職場の雰囲気も、よりポジティブなものに変化していきます。

 それでは次回は、部下の自己効力感を高める具体的なアプローチ法をお伝えします。

*今週の宿題*

 自分や部下の自己効力感をチェックしてみましょう。下記の10個の質問に対して、「全くそう思う」なら4、「ある程度そう思う」なら3、「あまりそう思わない」なら2、「全くそう思わない」なら1を記入し、最後にすべての数字を足して、合計得点を出してみてください。得点が高いほど、自己効力感が高いということになります。

 日本人の場合、20歳くらいでは20点前後だという研究結果があります。また、年齢を重ねたり仕事のキャリアを積んだりすると、徐々に点数が上がる傾向があります。経営者であれば、30点台後半という方も多いといいます。もしも同じ部署の中で、一人だけ点数の低い部下がいた場合は、自信を持って仕事に取り組めるようにサポートしてあげるといいでしょう。本連載「気持ちよく人を動かす『ほめ方』レッスン」のバックナンバーも参考にしてみて下さいね。

【自己効力感チェックリスト】

Q1. 十分に努力すれば、私はいつも難しい問題を何とか解決できる。
Q2. もし反対があっても、私は自分が望むやり方や方法を見つけることができる。
Q3. 私はきっと、自分のゴールを達成すると思う。
Q4. 予想外のことが起こっても、うまく処理できる自信がある。
Q5. 私は困難な状況に対処できるので、不測の事態にも対処できる。
Q6. もし必要な努力をすれば、私はほとんどの問題を解決することができる。
Q7. 私はストレスに対応力があるので、困難な状況に直面しても落ち着いていられる。
Q8. 問題に直面したときには、私はいくつかの解決策を考えることができる。
Q9. トラブルに巻き込まれたときでも、私はよい解決策を考えることができる。
Q10. 何が起きても、私は状況をハンドルする(統御する)ことができる。

<得点>

全くそう思う=4、ある程度そう思う=3、あまりそう思わない=2、全くそう思わない=1

部下やあなた自身の「自己効力感」を育てていきましょう (C)PIXTA
部下やあなた自身の「自己効力感」を育てていきましょう (C)PIXTA
プロフィール
枝川義邦(えだがわ・よしくに)
脳科学者、早稲田大学研究戦略センター教授。
東京大学大学院薬学系研究科博士課程を修了し、薬学の博士号を得る。早稲田大学ビジネススクールにてMBAを取得。マーケティングをはじめ、意思決定、モチベーション、リーダーシップ、クリエーティビティーなどを脳科学の視点で解説する。著書に、「記憶のスイッチ、はいってますか~気ままな脳の生存戦略~」「『脳が若い人』と『脳が老ける人』の習慣」などがある。

聞き手・文/青野梢 イラスト/北村みなみ 写真/PIXTA