ウォール街で働くことは本当に自分の夢なのか?

 「あるとき、気づいたんだ。『夢』であったはずの職業は、自分の夢ではないかもしれないと。育った社会がよしとする姿が自分にとって幸せだと、言い聞かせているんじゃないか……そんな思いを持つようになった」

 仕事をして寝るだけの日々を何とか変えたいと思い、ジェイクはハーレム地区の中学校で生徒の予習や復習を手伝うボランティアを始めた。これが、人生の転機となった。

右がジェイク。ハーバードでのクラスメイトと。エコノミスト(ベネズエラ出身)や市議会議員(アメリカ出身)、弁護士(カナダ出身)……と国や職種もさまざま。
右がジェイク。ハーバードでのクラスメイトと。エコノミスト(ベネズエラ出身)や市議会議員(アメリカ出身)、弁護士(カナダ出身)……と国や職種もさまざま。

 「毎朝目覚めると、平日は仕事に行きたくないという感覚が常にあった。でも土曜日はどんなに疲れていても、『よし、頑張ろう』と自然と新鮮な気持ちで学校に向かうことができた。毎週中学生と向き合うことで、エクセル表以外にも大事なことが世の中にはあると気づいたんだ(笑)。これが、生涯の仕事だったらどんなに楽しいだろうと、思い始めた」

 だが、そんな気づきがあったとしても、せっかく手に入れた「夢の職業」を辞めるのには相当な覚悟が必要だ。

これまでのキャリアを捨てられるか?

 「夢の職業」は単なる仕事だけでなく、それによって保障される生活そのものだ。

 ジェイクの場合、銀行員から教師になれば収入は半減以下。大家族を持つことが夢だったが、転職することで、自分が描いていた将来を子どもたちに与えられないかもしれない。大きな家には住めない。旅行も難しい。子供の大学の学費は払えるのか……。不安に思うことはたくさんあり、1年悩んだ。

 「アメリカでは残念ながら、他の国と違い、教師の社会的ステータスは決して高くない。思い描いていた生活を手放すうえに、これまで築き上げた『評価』もなくなってしまうと、正直考えた。地元に戻ってウォール街での仕事の話をすると、周りはみんな感動して聞いてくれた。今、振り返ると、他人の評価を気にするなんて小さな人間だと思うけど、その当時は『社会の目』は本当にパワフルに感じられ、思わず転職を断念しそうにもなった