ジェイクが幸せな転職を決断できた二つの理由

 結局、ジェイクは銀行員を辞めて教育の世界に飛び込んだ。この5年間、中学の数学の教師として働き、政策レベルで生徒の「学び」を変えたいという信念を持って、ハーバードに在学中だ。

 「転職は人生で一番良い選択だった。最終的に決断できたのは、二つの理由からだ。

 一つ目は、自分がどういう父親になりたいかを考えたから。子どもは親を見て育つ。そのとき、僕は『裕福な生活を可能にしてくれた人』ではなく、『好きな仕事に打ち込んだ人』『自分の仕事に誇りを持っている人』でありたいと思った。

 二つ目は、人に認められるかどうかの基準で、仕事を選んではいけないと思ったから。世界は広いから、一つの場所で良しとされる価値観であっても、決して普遍的なものではない。自分が誇りと興味を持って取り組める仕事を選んだ方がいい」

 ずっと同じ組織にいることで学べることはある。でも、同じ環境にいると、その狭い世界の常識や価値観に縛られてしまう。自分が今持っている視点は正しいのか。他に考え方、見方はないのか。一度その環境から出てみないと見えないこともたくさんある

 留学の意義は多様な価値観や生き方に触れることだけでなく、それによって自分の中の「あるべき姿」が少しずつ壊されることだと、ジェイクと話して改めて感じた。

 私自身、心のどこかで「ハーバードを卒業した後は、前職より『すごくて』、ハーバードに通った経験がなければ就けないような仕事に就かないと周囲から認められないのではないか……」と思っていた。そんな自分の中の緊張感が一気に溶けた会話だった。

文/大倉瑤子

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