ここ数年ブームのジビエ。野生の鳥や鹿などの狩猟肉を使った料理だ。もともとはフランス料理などで扱われる秋冬が旬の料理だが、最近は一年中ジビエを出す店も増えてきた。また、国産ジビエの存在も知られるようになり、獣害被害への対策が転じて地域おこしのグルメ食材へと進化しているところもあるほどだ。近年、女性にもファンが増えているという最新ジビエ事情を紹介する。

ジビエが年中人気のワケ

 食肉として飼育される牛や豚などと異なり、ジビエとなる野生の自然環境に生育しているシカやイノシシ、キジや真鴨は、基本的に各自治体によって狩猟解禁となる期間が定められている。しかし昨今、とくに鹿や猪などの数が増えすぎたため、狩猟期間外は「有害鳥獣駆除期間」とされ、むしろ「積極的に」駆除することが奨励されている。そのためほぼ年間を通して流通するようになった。また熟成肉や加工肉などのバリエーションも増えている。

 こうしたジビエには、野生の生き物ならではの魅力がある。とくに鹿や猪などの味わいとしては、脂肪分が少なくしっかりした赤身肉が特徴だ。赤身はたんぱく質や鉄分など栄養豊富でいて、カロリーは牛の4分の1程度とヘルシーなところから、昨今ブームとなっていることは以前にも紹介したとおりだ。その延長上でジビエが注目されるという面はもちろんあるが、人気の理由はそれだけではない。

 上質な赤身肉の持つうまみと食べごたえを好む人が増え、今までなかなか味わえなかった野生の狩猟肉という「希少性」や「プレミアム感」から注目されている側面もある。

初心者におすすめ、ジビエと普通肉の食べ比べ

 ジビエという言葉は知っていても、実際に食べたことがある人はまだ少ないかもしれない。そこで、チャレンジしてみたい! というジビエ初心者におすすめなのが、ジビエとその他の肉の食べ比べセットだ。

人気の「DOKOSA名物 肉コンボ」(3690円)は鹿肉・ブラックアンガス牛・ラム肉・岩中豚などが一度に!
人気の「DOKOSA名物 肉コンボ」(3690円)は鹿肉・ブラックアンガス牛・ラム肉・岩中豚などが一度に!

 こちらのセットが食べられるのが、本場フランス料理店で修業したシェフが腕を振るう「肉バル アンタガタドコサ 恵比寿本店」だ。ジビエの代表格ともいえる北海道産の蝦夷鹿のほか、ブラックアンガス牛、ラム肉、岩中豚、粗挽きソーセージなど特徴の異なる5種類の肉の多彩な味わいが一皿に凝縮されている。

 この中で唯一ジビエである蝦夷鹿はモモ肉のローストだ。「ジビエ肉はとくに鮮度が重要なので、入荷したその日のものしか使っていません。ジビエ肉特有の味や匂いはフルーティーな食材と相性がよいため、ぶどうから作られるバルサミコソースで召し上がっていただいています」と語るのは店長の野澤慶昌さん。肉にまったくクセはなく、コクのあるソースとのバランスの良さ、そしてなんといっても歯ごたえの良さに驚くだろう。

 また、ジビエではないが、昨今人気の高まるラム肉はグリルしてローズマリーで香りづけし、赤身の多いブラックアンガス牛はシンプルに焼いて粒マスタードで。さらにジューシーな脂身の特徴の岩中豚は、はちみつと白ワインでマリネしてブラックペッパーをきかせて……とそれぞれの肉に合わせた味付けがバラエティ豊富に味わえる。

 ボリューム満点でリーズナブルなのもうれしく、グループでシェアするのも楽しい。店内は広々としてシックな雰囲気で、女子会にもぴったりだ。

山小屋風の店内で味わう猪やキジ肉、時には熊も

 炭火焼きでシンプルかつストレートに味わうジビエも捨てがたい。

「ジビエ食べ比べ3種/5種」(一皿2200円/3600円 ※写真は5種セット)は一見しただけで肉質の違いが分かり、ワクワク気分に。
「ジビエ食べ比べ3種/5種」(一皿2200円/3600円 ※写真は5種セット)は一見しただけで肉質の違いが分かり、ワクワク気分に。

 渋谷の道玄坂界隈に佇む「渋谷百軒店ノ小屋」には、日本各地の蝦夷鹿、猪、キジ、真鴨などのジビエ肉はもちろん、飼育数の少なさから幻の和牛と呼ばれる京都牛や宮崎牛までがメニューに並ぶ。

 ここはやはり「ジビエ食べ比べ3種/5種」から始めたい。焼く順番や食べごろまで手ほどきしてもらいながら、早速味わってみると……キジはほどよい噛みごたえの中にじんわりとしたうまみが広がる。この日入荷があったというツキノワグマは驚くほどあっさりと軽くジューシー。そして野生の猪と豚が交配した猪豚は、両者のいいところを兼ね備えた上品な甘みを醸し出している。いずれもタレをくぐらせて提供してくれるため、焼くだけでおいしいが、好みで山ワサビや塩をつけてもいい。

 ジビエが人気になってきた理由を尋ねると、「鮮度を保ったまま管理する技術が上がり、おいしくなったこともあると思います。当店でも肉はチルドルームで保管しており、常にクオリティの良さを見極めて提供しています」と店長の金光哲さんは言う。

 一般的にジビエの“旬”は野生動物が体に脂肪を蓄える秋口と考えられてきた。しかし現在、鹿に関しては有害駆除の観点からほぼ年間を通して食べられるようになったのはお伝えした通り。そこで分かってきたのは、栄養豊富な「夏鹿」は香り高く、冬場とはまた違うおいしさが味わえるということだ。ぜひ季節を変えてトライしてみたい。

 店内は遊び心のある洗練された山小屋風。メニューにはパテやジビエのつくね、懐かしい飯ごうでいただく田舎ごはんもある。一頭買いで仕入れるという厳選された和牛やホルモン部位も多くそろい、肉好きは要チェックだ。

 ジビエの奥深さに触れたところで、次のページではさらに本格的なジビエ専門店を紹介する。