ピルの服用で卵子を温存 妊娠への影響は?

 低用量ピルによって、生理痛や月経前症候群の改善とともに得られるもう一つのメリットが「卵子の温存」です。山本医師によると、低用量ピルを服用すると一時的に排卵を抑えるため、卵子が体内に保たれるそう。

 卵子は精子と違い新しく作られることがないため、1年間飲み続ければ12個、10年間飲み続ければ120個の卵子が体内にとどまるという計算になります(無排卵の期間がなく、順調に排卵された場合)。不妊治療にも役立つのでしょうか。

「例えば健康な女性が35歳までピルを服用した場合、卵子は体内に多く残っています。しかし卵子を温存しても、子宮など妊娠に必要な臓器は歳とともに変化しています。不妊にはさまざまな要因があるため、卵子の温存によって妊娠しやすくなるとは言い切れません」(山本医師)

 さらに気になるのは、低用量ピルを服用した後の妊娠。山本医師によると、臨床研究を積み重ねたところ、妊娠には影響がないという結果が出ているそうです。男女共に不妊の要因がなければ、ピルの服用をやめて2~3カ月後に排卵が起き、妊娠できる体になるといわれているとのこと。

「ピル以上に妊娠に影響を及ぼすのが『中絶』です。避妊具の種類が少ない日本では、海外の先進国に比べて中絶件数が圧倒的に多く、報告されているだけでも年間17万件に及んでいます。やむを得ず避妊に失敗したときは、体への影響が少ないアフターピルを服用しましょう」(山本医師)

「だるい」「疲れやすい」 貧血を低用量ピルで予防

 貧血に関する著書の執筆経験がある山本医師によると、低用量ピルの服用によって貧血の軽減も見込めるそう。

「まだ研究中ではありますが、生理による出血量がナプキン1枚で済めば毎月体内から排出される鉄分の量が減るため、女性の貧血が改善されるのではないかと予想しています。貧血は、『だるさ』や『疲れやすさ』を引き起こすとともに、妊婦さんでは早産や低出生体重児の要因にもなるんですよ。これから妊娠を希望する人は、葉酸だけでなく鉄分の不足にも注意してくださいね」(山本医師)

 とはいえ、気になるのはピルによる副作用。妊娠には影響がないとのことですが、体に影響を与えることはないのでしょうか。

「一般的な薬剤と同様に、体に合わないと副作用が出てしまう可能性があります。服用後は様子を見て、合わないと感じたらすぐに婦人科へ相談しましょう。またピルによって排卵が抑えられても、性感染症の予防にはなりません。コンドームなど、感染を予防する避妊具も併用しましょう」(山本医師)

 山本医師が勤めるクリニックには、低用量ピルを飲んで生理痛が改善し、「もっと早く飲めばよかった」と話す患者も多いそうです。とはいえ、仕事や家事で忙しいとなかなか婦人科へは行けないもの。最後に、低用量ピルの服用以外で、生理の周期を整え、妊娠に向けて準備をする方法を聞きました。

「何よりも大切なのは、食生活です。ホルモンは脂肪によってつくられているため、極端に痩せているとホルモンバランスが崩れ、無月経になってしまうケースがあります。『生理がないほうが楽』と言う人もいますが、無月経の期間が長いと子宮内膜が膨らむサイクルが崩れ、妊娠に悪影響を与えてしまいます。まずは食生活を整えて一定量の脂肪を蓄えてから、ピルで周期的に生理を迎えるのがおすすめです」(山本医師)

「ピル=避妊」というだけの認識はもう古い。上手にピルを活用するのもいいですね (C)PIXTA
「ピル=避妊」というだけの認識はもう古い。上手にピルを活用するのもいいですね (C)PIXTA
プロフィール
山本佳奈
山本佳奈(やまもと・かな)
医師。1989年生まれ。滋賀県出身。2015年滋賀医科大学医学部医学科卒業。ときわ会常磐病院(福島県いわき市)・ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医、特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所研究員、東京大学大学院医学系研究科博士課程在学中、ロート製薬健康推進アドバイザー。著書に『貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策』(光文社新書)がある。

聞き手・文/華井由利奈 写真/PIXTA