ワクチン接種が自閉症を招く?

 しかし、この記事に対するインターネット上の反応を調べてみると「やっぱりそうだったか」「だから私は何年もワクチンを接種していない」「ワクチンは製薬会社の儲けのための道具だ!」というリアクションも少なくなかった。今は取り下げられたその記事にリンクを貼り、「やっぱり私の感覚は正しかった」とコメントしているブログもあった。ブログ執筆者が、リンク先の記事が既に取り下げられていることに気が付く可能性は低いだろう。

 ワクチンの誤報に関連していえば、1998年に大きな物議を醸した、幼児へのMMRワクチン(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹混合ワクチン)接種が自閉症を招くとした論文がある。親たちが子どもへの予防接種に懸念を示す原因となったが、結局は内容に虚偽があるとして、その論文を掲載したLancet誌が「完全に抹消する」と決断して幕を閉じた(参照記事:Lancet誌がMMRと自閉症の関係を示唆した論文を抹消)。しかし、論文抹消後もその風評は一人歩きし、この論文によって幼児へのワクチン接種に悪い印象を抱いたままの人も多いようだ。

 一度誤まった情報を流してしまえば、取り消したとしてもたまたま目にして読んでくれた人の記憶まで修正することは難しい。報道の役割と意義を認識しつつ、正しい情報提供の継続を心掛けたい。

(※日経メディカルオンライン 2015年2月9日の記事より転載)

増谷彩=日経メディカル