共和党候補の当選は当然の結果か

 これまでの歴史を振り返れば、アメリカの歴代大統領は第2次大戦後、民主党と共和党がほぼ交代で入れ替わってきた。その候補者たちが掲げてきたスローガンも、その多くに“Change”を連想させる言葉が使われ、現政権からの脱却と新政権への期待を米国民に向けてあおるものだったといえる。

 その歴史からすれば今回の選挙では、民主党のオバマから共和党の候補者に入れ替わるというのが順当な流れだったのかもしれない。その候補が、暴言を繰り返し、人種差別や女性蔑視など、様々な問題を起こすトランプであったということを除けば。

 暴れん坊のトランプに悩まされた共和党だったが、決め手を欠いた対立候補のヒラリーに助けられるかのようなかたちで政権を奪取できたことは間違いない。

女性に嫌われた? ヒラリー

 アメリカの歴史に、女性大統領という新しい1ページを刻むかもしれなかった今回の大統領選挙。黒人初の大統領となったバラク・オバマのときとは大きく異なっていたことがあった。それは、ヒラリーに対する女性層の熱の低さだ。

 オバマが大統領選に出馬した際には、多くの国民、特に黒人層が新たな歴史の幕開けに興奮し、涙まで流すものも少なくなかった。女性初の大統領、こちらも大きなターニングポイントになるはずだったのに、周囲からはオバマ大統領の選挙戦の時のような熱を感じることができなかった。オバマの選挙戦の応援ボランティアをしていたという女性も、「今回は特に応援しようとか、彼女の力になりたいとか、彼女だから是非大統領になってほしいというような熱気は感じられなかった」と話す。

 実際、CNNが実施した投票日の出口調査の結果をみると、ヒラリーに投票した女性は54%。これに対し、トランプは42%の女性票を獲得している。もしも、女性から圧倒的な支持を集めていたら、この数字はもっと差が開いていたはずだ。ちなみに前回の大統領選挙では、オバマが女性から55%の支持を得た一方、対立候補のロムニーは44%の女性票を獲得しており、今回の結果とほぼ変わらぬ得票率だった。

女性でヒラリーを支持したのは54%
  クリントン トランプ その他・無回答
男性 41% 53% 6%
女性 54% 42% 4%
性別でみた両候補への投票率。CNNによる出口調査。回答数:2万4537

 では、なぜヒラリーはそこまで女性の支持を集めることができなかったのか。一つには、先ほどのボランティア女性の発した言葉に、その答えが含まれているかもしれない。

 彼女だから、ぜひ大統領になってほしいというようなことは感じられなかった――。

 ヒラリーは選挙戦当初から、女性に向けたメッセージを送り続けてきた。時には演説で、時にはテレビCMで、ツイッターで。しかし、様々な方法で送られるメッセージが女性たちの心に響いたかといえば、疑問が残る。「わざとらしくて、突っ込みどころ満載」「まったく共感できない」「女性の代表みたいなセリフがむかつく」など、むしろ批判的な言葉が多くの女性から聞かれた。

 テレビやラジオのワイドショー番組では、夫ビル・クリントンの度重なる不倫スキャンダルにもヒラリーが離婚を決意しなかったのは、今回のチャンスを虎視眈々(たんたん)と狙っていたためではないかなど、彼女の策士ぶりを皮肉る番組も流れていた。強ければ強いほど、隙がなければないほど「嘘っぽい」「人間味がない」など、女性からの支持を逃していった可能性はある。