裕福な家庭に育ち、学生時代からエリート街道まっしぐら、弁護士、ファーストレディー、国務長官という華麗なる経歴を持つヒラリーの発言は、男を押しのけてでも闘う、ひと昔前のフェミニズムを連想させた。このフェミニズムは、現代の働く女性にはしっくりこなかったようだ。「家庭やプライベートを犠牲にしてまで、彼女のように仕事をバリバリする気はない」「ヒラリーには女性としてのソフトな部分が欠けているように思える」「孫を抱きながらほほ笑んでいる写真、これって撮影の時だけしてるんでしょ」など、どこか共感できない女性像がヒラリーには見え隠れしたという女性が驚くほど多かった。
発言するほどに広がる女性たちとの距離。最終的には女性蔑視発言をしたトランプにさえ、女性の支持を奪われることになったのは皮肉としかいいようがない。
CNNの出口調査によれば、今回の選挙戦で「相手候補が嫌い」という理由で投票を決めた人のうち、トランプが嫌いだからヒラリーに投票したという人の割合は39%、ヒラリーが嫌いだからトランプに投票した人は51%に上った。
クリントン | トランプ | その他・無回答 | |
強く支持する | 53% | 42% | 5% |
条件付きで支持 | 48% | 49% | 3% |
対立候補が嫌い | 39% | 51% | 10% |
近年まれに見る「嫌われもの対決」は、僅差だったもののトランプに軍配があがった。マイナス要因があまりにも多かったトランプに、普通にいけば勝てるはずだったヒラリーが負けた要因は、最後まで「嫌われもの」のレッテルをはがすだけの決定打を出せなかったことにありそうだ。
もちろん、熱狂的にヒラリーを応援する女性の中には、旧来のフェミニズムの実現を歓迎する人もいただろう。しかし、自己実現の手段としての仕事ではなく、生活のために低賃金で働く女性や、移民の女性、シングルマザーなど、様々な女性たちが既存のエリート層に抱く拒否感が、初の女性大統領誕生を阻む一因となったことは間違いない。彼女たちにとっては、ヒラリーの「大きな夢を持つ、全ての少女たちに。あなたたちが望めば、何にだってなれる、大統領にでも。今夜はあなたたちのための時間です」(ヒラリーが民主党候補指名を確実にした時のツイッター)という言葉は空虚に聞こえたに違いない。
ちなみに現代の働く女性には、ヒラリーよりも、トランプの長女イバンカへの支持が厚いようだ。35歳のイバンカは、180センチの長身を生かしてファッションモデルとして活躍しただけではなく、名門ペンシルベニア大学を首席で卒業した頭脳派で事業家としても優秀、かつ3児の母でもある。彼女が展開する働く女性向けのファッションブランド“Ivanka Trump”は人気を集めている。「闘う」イメージとは真逆の上品なたたずまいが注目を集め、トランプ陣営の広告塔としても大きな役割を果たしたとされている。
文/小路夏子