労働時間規制の適用除外となるケース

 会社が社員に携帯情報端末を貸与するのは、裏を返せばその社員にとって業務上必要性があるからです。例えば、営業社員のように常に社外にいるような場合は、連絡手段として非常に有効なツールとなります。業種によっては、緊急時に備えて、常時電源をオンにしたまま携帯することを命じられている場合もあります。この場合、随時対応が求められますが、その代わり、相当の手当を支給されていることもあるでしょう。使途は業務内容によっても大きく異なります。

 いつでも携帯情報端末に電話がかかってくればすぐに対応しなければならない点については、宿直または日直の勤務で断続的な業務の労働時間規制の適用除外(労働基準法施行規則第23条)が参考になります。宿日直勤務とは非常事態の発生に備えて勤務するものをいい、勤務時間中に睡眠設備があり、常態としてほとんど労働する必要がない勤務をいいます。夜間に渡り宿泊を要するものを宿直といい、その時間帯が主として昼間であるものを日直といいます。

 場所的拘束力がある点においては大きな違いがありますが、こうした断続的業務について、所轄労働基準監督署長の許可を受けた場合は、労働時間、休憩、時間外割賃金の適用が除外されます。ただし、許可基準としては、宿日直手当(1日または1回につき、宿日直勤務を行う者に支払われる賃金の1日平均額の3分の1以上)、宿日直の回数(宿直は週1回、日直は月1回を限度)等が定められています。

 もし本当に常時、携帯情報端末の電源を入れておくことを会社に命じられ、就業時間外における対応頻度が高いのであれば、こうした点も参考に、回数や手当が検討されるべきといえるでしょう。

 一方、会社から携帯情報端末が貸与されているものの、特にルールは設けられていない職場も多数あります。労働契約や就業規則等において規定上の根拠はないにもかかわらず、なんとなく慣例で、電源をオンにしたままでいる……という方もいるかもしれません。それによって悩んでいるならば、会社の方針を確認することが大切です。会社から貸与された携帯電話だからこそ、その点を明確にしたほうがよいでしょう。

 勤務時間外のプライベートな時間の使い方は、本人の自由です。仮に業務上のトラブルがあって、いつ対応が求められるかわからないようなときは、終業後も電源をオンにしておくなど臨機応変な対応は考えられますが、原則として終業後は電源をオフにする、あるいは退社するときに会社の所定の場所に置いておくといった取り扱いも考えられるでしょう。こうした点も含めて、社内ルールを確認しておきたいものです。

オンとオフの切り替えを意識して

 ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の進歩・普及は、私たちの働き方を大きく変えました。今や、「いつでも」「どこでも」働くことができる便利な時代ですが、それだけにオンとオフの境界線が曖昧になってしまう懸念が絶えません。ましてメールであれば、相手の都合を考えず夜中や早朝など、いつでも送りたいときに送れてしまいます。

 フランスでは2017年1月から、労働者数50人以上超の企業に対して、雇用されるすべての従業員について、勤務時間外の業務連絡の電話やメールからの解放を保障する新法が施行されました。いつでもどこでも働けるからこそ、従業員側に「つながらない権利」(The right to disconnect)を認めたもので、勤務時間外のメールなどを強制的に禁止するものではありません。

勤務時間外の電話やメールからの解放を保障する法律が施行される国も  (C) PIXTA
勤務時間外の電話やメールからの解放を保障する法律が施行される国も  (C) PIXTA

 便利になった一方で、プライベートな時間が侵されることのないよう、私たちも今まで以上に意識して、オンとオフを切り替えていくことが、心身の健康を保つ秘訣ともいえるでしょう。

文/佐佐木由美子 写真/PIXTA