働いてみてから、わかったこと

 最初の1週間は、前任者との引き継ぎで定時退社をしていましたが、翌週からは状況が一変。残業はない、と聞いていたにもかかわらず、実質的な担当者は花梨さんしかおらず、上司は実務がまったくわからなかったため、結局は花梨さんが毎日残業をしてフォローせざるを得ない状況となってしまいました。しかも、いくら残業をしても、給与は変わりません。

「これでは、何のために前の会社を辞めたのか。このまま一人で背負ってしまったら、また病気になってしまうのではないか…」

 花梨さんの脳裏に、前職でのつらい経験がよみがえりました。そもそも、残業はないと言っていたのに、突発的な事態であればまだしも、こう毎日残業をしなければ業務が滞ってしまうというのは、明らかに話が違うと思いました。しかも、こうした状況でお休みを取ることもできません。

 悩んだ末に、花梨さんは3か月で会社を退職しました。納得できない想いはありますが、このまま仕事を続けても、幸せな未来を描くことができなかったのです。そして、入社前に労働条件をきちんと確認しなかったことを、心から悔やみました。

労働条件は書面で確認しましょう

 難航すると思った転職活動。ところが、思いのほか自分のスキルが高く評価され、スムーズに採用が決まる…こうした話は、決して珍しいことでありません。特に今は売り手市場ですから、優秀な人材はどの企業も、喉から手が出るほど欲しいはずです。そのため、企業側も会社の良い面を当然アピールしてくるでしょう。

 こういうときこそ、私たちは冷静になる必要があります。口ではその場の勢いもあり、必要以上に良く話してしまうこともあるかもしれません。また、「言った、言わない」の水掛け論になってしまうこともあります。

 そのため、入社を決める前に、書面で労働条件を確認しておくことが大切になってくるのです。法律では、使用者は労働契約の締結に際し、労働者に賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならず、一定の事項については書面で交付することを義務付けています(労働基準法第15条第1項)。

 また、明示された労働条件が事実と相違する場合いおいては、即時に労働契約を解除することができる、とされています(同条第2項)。

 書面であれば、じっくりと内容を確認することもできますし、客観的な証拠にもなり得ます。事前に書面で労働条件を確認させてもらいたいと伝えれば、きちんと労務管理をしている会社であれば誠実に対応してくれることでしょう。

 そのうえで、よくわからないことがあれば、そのまま放っておかずに、確認をすることが大切です。たとえば、「残業代込み」とある場合には、それが何時間分に相当するか、手当の額など、理解しておきたいところです。長く勤める職場になるからこそ、しっかりと確認をし、スッキリとした気持ちで入社してください。

文/佐佐木由美子

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