真実を告知する義務がある

 使用者が雇用契約の締結に先立ち、労働者の経歴その他労働力の評価にかかわる事項等について、必要かつ合理的な範囲で申告を求めた場合、労働者は自己の経歴等について真実を告知すべき義務を負います。

 多くの企業では就業規則において、経歴詐称は採用取り消しや懲戒解雇、普通解雇事由として規定されているはずです。

 ただし、経歴詐称があれば直ちに解雇が有効になるわけではありません。裁判所の多くは、「重要な経歴」に限定しています。これは、真実を告知したならば採用されなかったであろうという採否の決定や採用後の労働条件に大きく影響を及ぼすもので、学歴や職歴、犯罪歴などに関する経歴詐称を懲戒解雇事由として認めています(炭研精工事件・最一小判平成3.9.19)。

 経歴詐称は、なぜ問題となるのでしょうか。懲戒解雇を認め得る根拠としては、会社を騙したという不正行為により、信頼関係を壊してしまう信義則上の問題が挙げられます。さらにいえば、給与や人員配置など日本の人事管理体制が、学歴や職歴などを大きな要素としているため、その秩序が乱れることもあります。

 中途採用においては、即戦力を期待して職歴を重視する傾向にあります。採用の可否や労働条件の決め手となる職歴や学歴を偽るのは、重要な経歴詐称といえます。この点は、しっかりと頭に入れておいてください。

 職歴や学歴を「盛って」見栄えよく見せるのはいけませんが、大卒でありながら高卒というように、低く偽った場合も問題となることがあります。

 いずれにしても、採用募集に関して提出する書類は事実を記載するようにし、採用面接についても、たとえばブランク期間に何をしていたか、と質問された場合なども真実を告知することが大切です。経歴詐称で、人生を棒に振ってしまっては元も子もありません。少しくらいは大丈夫、と高をくくらず、誠実な対応を心がけましょう。

文/佐佐木由美子

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