業務命令の範囲

 礼美さんは、これまで業務命令だと思って、多少M部長の言動はおかしいとは思っても、甘んじて従ってきました。部下の立場からしてみれば、上司に「○○してほしい」と勤務時間中に依頼されれば、それを業務命令と受け取ることは自然といえるでしょう。しかし、上司の言うことが絶対とは限りません。そもそも、業務命令の範囲とはどこまでをいうのでしょうか?

 「業務命令」とは、使用者が業務遂行のために労働者に対して行う指示または命令のことをいい、配転命令や残業命令などのように、多種多様な権利が含まれています。使用者が業務命令権をもつ法的根拠は、労働契約にあります。そのため、労働者が業務命令義務を負うのは、合理的な範囲に限られます。

 業務命令が合理性を欠くならば、法的な拘束力はなく、命令を受けた労働者が拒否しても、懲戒処分その他の不利益を受けることはありません。

 不適切な業務命令は、一歩間違えると、パワハラやいじめ、セクハラなどの問題を引き起こしかねず、業務に関連していたとしても、目的が不当である場合は権利の濫用となります。

困ったときは相談を

 礼美さんのように、上司からいろいろなお使い事を頼まれたことがある、という話は、これまでも少なからず聞いたことがあります。有名アーティストで入手困難なコンサートチケットやサッカー観戦の手配など、明らかに私的な依頼といえるケースもありました。

 上司から、「ちょっとおかしいな。これは私の仕事かな?」と感じる依頼や指示を受けたときは、その内容が本来の業務を遂行するために必要なことか、一息おいて考えてみましょう。業務に関連するように思えても、目的が不当であれば権利の濫用にあたります。

 「頼めばやってくれるだろう」と上司自身の認識が甘い場合も考えられます。判断に迷うときは、「それは業務でしょうか?」と、確認するのも一つのやり方です。また、職務上の地位を利用して、不当と思える業務を命じてきたり、断ったときに報復的な対応が見られたりするようなときは、会社のハラスメント相談窓口へ相談するようにしましょう。

 こうした問題を放置しておくと、要求がエスカレートする可能性もあります。不必要な業務命令を受けたときは、早めに手を打つことが肝要です。

文/佐佐木由美子 写真/PIXTA

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