自分らしい働き方を求める前に

 これまでは、職場にいれば、働く時間帯も同じで、組織・部署ごとに席が決められていることがほとんどですから、自然と同じ業務をする従業員らと顔を合わせて仕事をすることになります。

 こうした従来型におけるメリットは、情報共有が簡単にできるということ。日々現場でどのようなことが起きているか、どのようなトラブルが発生したか、どのように問題を解決したか自然と情報を得ることができます。また、上司や同僚がどのように業務をうまく進めているのか、成果を上げているのか、仕事のやり方をモデリングすることもできます。

 もちろん、同じ場にいなくとも、ICTを駆使すれば情報共有は十分に可能ですし、コミュニケーションを取ることは大した問題ではありません。

 私が懸念しているのは、業務の個別化が進む中で、基礎的なスキルをしっかり担保できているかどうか、ということです。自分らしく、好きな時間に好きな場所で自由に働けることは魅力的ですが、それは自律的に働けることを前提とした話です。それには、自分自身でうまく時間を使って仕事を進めるセルフマネジメントも含まれます。

 一人前の業務を行うには、当たり前ですが、担当業務について熟知しており、一定のスキルと経験を備えておく必要があります。さらに、人間関係への配慮や、問題解決能力など、業務を円滑に効率よく進めていくための複合的なノウハウが求められます。

 こうしたうえでの、「自分らしい働き方」というのは理解できますが、土台がないままに、「分かったつもり」で単独で仕事を進めていくやり方は、リスクを伴います。

 スポーツでも基礎が大切といいますが、早く上達したければ、プロのコーチをつけて基礎から特訓を受けることが一番の近道といえるでしょう。基本がなければ、応用も効きません。

スポーツも仕事も、誰かに見てもらうメリットは大きい (C)PIXTA
スポーツも仕事も、誰かに見てもらうメリットは大きい (C)PIXTA

 職場では、上司や先輩、同僚から基礎的なスキルや知識だけに限らず、マニュアルには書かれていない多くのことを学べる機会があります。それを「つまらない」「時間の無駄」と切り捨ててしまっては、自らの可能性を狭めてしまっているようなものです。

 以前、クライアント先の職場で、プロデューサー志望の新卒社員が入社してきました。当然、右も左も分からない新人ですから、いきなり花形の仕事を任せてもらえるわけではありません。しかし、「自分はプロデューサーになるために入社した。こんな雑務を毎日するためにいるわけじゃない」と、半年足らずで会社を辞めてしまいました。

 この例は極端ですが、自分のやりたいように働き、自分の好きなことで身を立てるには、現実は甘くありません。一定の基礎を習得した後に、工夫や改良を重ねて徐々に自分らしさを発揮して、自分なりのキャリアが構築できるのではないでしょうか。