「職務専念義務」があることを忘れずに

 私たちは普段職場で、仕事の合間に天気や趣味の話、あるいはメディアで話題のニュースなど、雑談を交えながら仕事をしています。こうした雑談のやり取りは、社員間でコミュニケーションを良好にする潤滑油のようなもので、それほど問題に当たるとは言えません。

 同じように、チャットでそうした雑談のやり取りが多少あったとしても、直ちに不適切とは言えないでしょう。問題は、その頻度や長さ、内容などです。

 労働契約の締結に際しては、社員に職務専念義務が課せられています。業務中は職務に専念する必要があることから私的行為はいけないとされていますが、疲れたら気分転換にお茶を飲んだり、息抜きをしたりすることなどはよくあることで、一体どこまでの私的行為がNGで職務専念義務違反に当たるのか、なかなか分かりにくいものです。

 これについて、参考になる裁判例として、過度の私的なチャットを理由になされた懲戒解雇の有効性が争点になった「ドリームエクスチェンジ事件」があります。裁判所は「チャットの時間、頻度、上司や同僚の利用状況、事前の注意指導及び処分歴の有無等に照らして、社会通念上相当な範囲と言えるものについては職務専念義務に反しない」としています。

 しかし、この事件では、約7カ月間で合計5万158回の私的チャットが行われていました。チャット1回当たりに要した時間を1分として計算すれば、概算で1日当たり350回以上、時間にして2時間程度のチャットが行われていたことになります。さらに、チャット内容も就業に関する規律に反するものだったため、「チャットの相手方が社内の他の従業員であること、これまで上司から特段の注意や指導を受けていなかったことを踏まえても、社会通念上、社内で許される私語の範囲を逸脱したものと言わざるを得ない」とし、懲戒解雇を有効としました(東京地裁 平成28年12月28日判決)。

 この裁判例に照らして考えると、私的チャットを繰り返しているという先輩が、どのくらいの期間にわたって、どのような頻度で私的なチャットをしているのか、まず確認する必要があるでしょう。業務においてもチャットを使用しているということなので、私的なチャットと混在しているのがさらに問題を複雑にしています。

 亜沙美さん個人で抱え込む部類の問題ではありませんので、まずは上司に相談し、会社が適切な対応をしてくれることを見守るのが望ましいと言えるでしょう。