こんにちは、「ワークルールとお金の話」の佐佐木由美子です。今回は、私たちの暮らしにとって身近な「保険証」について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

身分証代わりとして使える保険証だが…

 私たちが普段利用している健康保険被保険者証(以下、「保険証」といいます)。病院で受診するときは、決まって窓口に提出するものです。保険証があることで、医療費の自己負担を3割で済ませることができますし、また身分証代わりとして利用されることも多く、何かと重宝する存在といえるでしょう。

 入社や退職の事務手続きにおいて、保険証を取り扱う場面は多く、紛失したときの再交付申請や結婚・離婚時における氏名変更手続きなど、社会保険労務士として保険証関係のご相談をいただくことは少なくありません。

 そうした中で、ある一つの悩みを耳にしました。それは、保険証に記載されている名前と性別に、家族が苦痛を感じている、という声です。

 話を伺ってみると、会社員であるAさんの妹Bさんが、心の中では男性として生きたいと考え、普段の生活では通称名を名乗っているものの、戸籍上の名称変更がまだできる状態ではないとのことでした。

普段の名前と戸籍上の名前が異なる場合、保険証は使えるのでしょうか? (C) PIXTA
普段の名前と戸籍上の名前が異なる場合、保険証は使えるのでしょうか? (C) PIXTA

 ある日、Bさんが高熱を出して病院を受診したところ、窓口で「他の人の保険証を使うことはできません」と全額自費負担を求められる出来事があったというのです。Bさんの外見と保険証の内容が一致しないと、窓口の担当者は思ったのでしょう。しかし、他にも患者がいる中で、こうした事情を説明しなければならないことは、大変な苦痛だったに違いありません。

LGBTを取り巻く職場環境

 性別といえば、私たちは単純に、男性か女性かの2種類に分かれると思いがちです。しかし、生物学的な性別と、自分の性別をどのように認識するかという2つの側面があり、一部においてはこの両者が一致しないこともあります。Bさんは、体は女性でありながら、心は男性というトランスジェンダーの状態で、「性同一性障害」を抱えていました。

 近年、LGBTという言葉を耳にする方も増えてきたのではないでしょうか。LGBTとは、レズビアン(lesbian)、ゲイ(gay)、バイセクシュアル(bisexual)、生まれたときの体の性をもとに割り当てられた性別と心の性が異なるトランスジェンダー(transgender)の頭文字を取った、性的マイノリティーの人たちを総称する言葉として、国内外で一般的に使われています。

LGBTの象徴は6色のレインボーカラー (C) PIXTA
LGBTの象徴は6色のレインボーカラー (C) PIXTA

 日本においても、LGBTに対する認知の広がりとともに、企業でもダイバーシティ&インクルージョンの取り組みとして、性的指向や性自認を理由とする偏見や差別のない職場をつくろうとする動きが、少しずつではありますが増えてきています。特に外資系企業等では、こうした取り組みがいち早く行われ、多様な社員の離職を抑制することにつながっている例もあります。