保険証の取り扱いに変化が

 こうした社会的な背景もあり、保険証の取り扱いについて、「被保険者証の氏名表記について」という新たな通達が発出されました(保保発0831第3号他)。

 通達には、「性同一性障害を有する被保険者又は被扶養者から、被保険者証において通称名の記載を希望する旨の申し出があり、保険者がやむを得ないと判断した場合には、被保険者証における氏名の表記方法を工夫しても差し支えない」ということが明らかにされています。

 Bさんのように、戸籍上の氏名変更ができない場合において、通称名を記載することができれば、生活における支障も多少和らげる効果が期待できます。

 ただし、保険証がさまざまな場面で本人確認書類として利用されていることから、通称名のみの記載は認められていません。裏面を含む保険証全体として、戸籍上の氏名を確認できるようにすること、となっています。

 例えば、保険証の表面の氏名欄には通称名を記載し、裏面の備考欄に「戸籍上の氏名は○○」と記載されるケースが想定できます。また、性別については「裏面参照」などの記載により、表面だけ見たときに違和感のないように配慮されている健康保険組合もあります。

 ただし、こうした通称名への変更においては、保険者に医師の診断書等の性同一性障害を有することを確認できる書類、およびその通称名が社会上日常的に用いられていることが確認できる書類の添付が求められている点には留意しなければなりません。

 国民健康保険においては、性同一性障害を有する方の保険証の氏名表記について、2016年7月13日付けで「保険者の判断による表記方法で差し支えない」旨の事務連絡がありましたが、今般、健康保険においても同様の見解が改めて示された形となりました。

 もし保険証の名称表記について悩んでいる方がいれば、小さな一歩ですが、こうした変更点についても参考にしていただければと思います。

文/佐佐木由美子 写真/PIXTA