「腸のお花畑=腸内フローラ」を大事に育てよう

 そんな腸内細菌たちが住みやすい環境を作るには、生活リズムを整えたり、腸が冷えないように温めたりしながら、腸内細菌にエサを与えることが肝要とのこと。腸内には100兆個の腸内細菌のお花畑、すなわち「腸内フローラ」があり、その花畑にせっせと養分を与えてあげることが腸内の細菌たちを元気にするのです。

腸内フローラについての説明を受ける参加者のみなさん
腸内フローラについての説明を受ける参加者のみなさん

 腸内善玉菌の大好物は、食物繊維・オリゴ糖・発酵食品の三つです。「中でも食物繊維に関しては、日本人の摂取量の推移が年々減少傾向にあり、1950年代は27g、1960年代は18g、2010年は12gという数値に。現在、1日20gが推奨基準ですが、現実は摂取量がかなり少ないことが分かります」

 小林さんはそんな現状を鑑みて、1日にプラス10gの食物繊維を摂ろう、という運動をスタート。加えて、不溶性食物繊維・水溶性食物繊維と2種類ある食物繊維の中でも、水溶性食物繊維をたくさん摂ることを勧めています。実は、不溶性と水溶性で食物繊維の働き方は下記のように異なるのです。

●不溶性食物繊維の役割
・咀嚼を増やし、満腹感を得やすくする
・胃の中に長時間滞在し満腹感を与える
・便を柔らかくしてカサを増すことで腸の蠕動(ぜんどう)を活発にする
・発がん物質など腸内の有害物質の排泄促進
●水溶性食物繊維の役割
・善玉菌を活性化し種類や数を増やす
・ブドウ糖の吸収を緩やかにし食後の血糖値の急激な上昇を防ぐ
・コレステロールの体内への吸収を防ぐ
・大腸がんの予防

 「不溶性食物繊維が多い食べ物は、根菜、イモ類、おから、玄米、豆など。水溶性食物繊維は最近話題のもち麦、海藻、フルーツ、ドライフルーツ、納豆などが挙げられます。不溶性ももちろん良いのですが、水溶性のパワーは特筆すべきもので、腸内環境の改善に大きな役割を果たしています。ぜひ皆さんも水溶性食物繊維を積極的に摂取して、腸内フローラを活性化してほしいですね」

食物繊維の不足で、日本人の腸が泣いている

 さらに、小林さんと日経BPヒット総合研究所・主席研究員/日経ヘルス プロデューサーの西沢邦浩とのトークセッションでは、食物繊維と日本人の腸に関する驚くべき事実も。小林さんによると、最近はやりの糖質制限や炭水化物抜きダイエット中に便秘になってしまい、クリニックを訪れる患者さんも増えているとか。西沢はそのことを受けて次のように語ります。

 「欧米人と日本人の腸を比較すると、日本人は炭水化物が大好きな腸内細菌が多いことが分かっています。ですので、炭水化物を摂らないとそれをエサにしている細菌たちが泣き出してしまう。ちなみに、大麦や全粒穀物の炭水化物を1日90g以上摂ると、すべてのがんによる死亡リスクや糖尿病による死亡リスク、すべての病気による死亡リスクが低下するという多くの研究を総合的に分析した結果も出ています。炭水化物由来の食物繊維を好物としている腸内細菌が多い日本人は世界の中でも炭水化物を抜いてはいけない民族で、炭水化物抜きダイエットは向いていないのではないかという思いを強くしました」

小林さんと、日経BPヒット総合研究所の西沢邦浩とのトークセッション
小林さんと、日経BPヒット総合研究所の西沢邦浩とのトークセッション

 さらに、食物繊維の摂取量から検証した長期にわたる追跡研究についても紹介。思春期から1日平均25.4gと多めに摂取してきた女性と、平均14.8gしか摂ってこなかった女性のその後の乳がん発生率を比較したところ、食物繊維を多く摂取している女性は少ない女性よりもリスクが25%も下がり、加えて更年期前の人に限ると33%も下がるということが分かっているそうです。これは米国の看護師さんに関する研究結果ですが、今、日本の10~20代女性は1日平均12gしか食物繊維をとっていないので、心配です。