自信なき女の子 vs. 愛情あるドS上司

 さて、この「ダメ恋」のヒロインはというと、不思議なことに同じ出来事が起こり、同じセリフを話していても、漫画原作とドラマでは印象が違います。

 原作のヒロインの柴田ミチコは自分に自信がなく、年下男に貢いでばかりなのですが、一方でドS上司の黒沢には言いたいことも言えていて、どこか表情に強いところもあります。また、女子力が低く(それを示唆するセリフもあります)、女として不器用なタイプに受け取れます。好きな人に対する女子力には自信はないけれど、好きな人以外に対しては女子力がないことをそこまで気にしていなくて、ドS上司とやりあう強さは感じるのです。

 ところが、テレビで同じキャラクターを深田恭子さんが演じると、同じセリフやシチュエーションでも印象が異なります。表情も声も柔らかく、女子力は低くは見えず、しかし、とにかく頼りなくて誰かが支えてあげないと……と思わせる人に見えるのです。ドS上司に物言うシーンも、漫画のイメージより柔らかい。演じる人によって、こんなに印象が違うものか!と驚きました。

 それでもどちらのミチコにも、自信のなさが漂います。付き合った相手には「私なんかですみません」と下から目線、イケメンの年下彼氏には貢いでしまい、主任の黒沢に話を聞いてもらうときは、「お肉食べませんか? 私がおごります」と、対価を払わないと怖くて仕方がない。そして、人の頼みごとを断れずによく働きます。逆に、何も理由がないのに優しくされるのは苦手です。

 世の中には、「そこに私がいるだけで価値がある」と思える人がいる一方で、どこにいても自分の存在意義を見出せない人が存在していると思います。そこにいるためには、「私が何か奉仕しないと」「私が代価を払わないと」……と思ってしまうのです。

 この役を、今までそこに居ることに代価を払う必要などなかったであろう、女子力満点の深キョンが演じると、多少の違和感を覚えるのも事実です。ただ、逆に深キョンがこの役を演じることで、「現実にはこんなことありえないんだぞ」と、このドラマがファンタジーであることを強く認識させるのには一役買っているのかもしれません。そして、ディーンさんが演じる黒沢のような、キツいことを言うけれど、それは気の弱く自信のないミチコが自立するためである、という人もなかなか世の中には存在しないのではないかと思うのです。

 ディーンさんが、この作品のどの部分をジェンダー問題と言ったのかは定かではありません。ですが、職場で女性が求められる役割や、アラサーの女性の現状、そして、そんな社会的な状況のために自信が持てない女性の存在が、この作品では分かりやすく描かれています。それが我々日本に住む女性にとっては当たり前すぎて問題定義になっていないように見えても、外国育ちのディーンさんには、そのままジェンダー問題に見えたのかもしれないなと思いました。

文/西森路代、イラスト/川崎タカオ