体重の増減で役作り

 全く方向性の違うイメージづくりを可能にしたのは、やはり有名な話になりましたが、体重を自由に操る、いわゆるデニーロ・アプローチに果敢に取り組んでいることもあるでしょう。鈴木さんは、もともと家族ともども痩せ形だそうですが、「HK 変態仮面」で一度15キロ増量し、その後、脂肪を落として挑んだそうです。

 ドラマ「天皇の料理番」では、20キロの減量をしてから収録に挑んでいましたが、今になって当時の映像を見たら、ここまでそぎ落とした人は見たことがないと思われるほどの痩せ方でした。その後も、「俺物語!!」では30キロの増量。こうしたアプローチについては、鈴木さん自身も「まねしないでくださいね」と言っているそうですし、自身の健康状態にも気を遣いながらのことかと思われますが、まず、その過酷な体重の増減をやってのけてしまうことにも驚きです。

 こうした体重の増減もあって、さまざまな役を自分のものにしてきた鈴木さんですが、こうした役を演じれば演じるほど、オファーする側も、これ以外の役柄にも挑戦してほしいと思うようになるでしょう。なぜなら、繊細な役から豪快な役という、両極端が演じられるということは、その間のグラデーションにある役も演じられるということが見えているからです。

 来年の大河ドラマ「西郷どん」の西郷隆盛役も、こうした幅広さからオファーされたのでしょう。もちろん、人々が強いイメージを持つ役ほど「銭形警部」の時のように役作りで難しいところもあるかと思いますが、1年間、一つの役に挑む姿が見られるのも楽しみです。

 演技についてばかり書いてきましたが、私が個人的に鈴木さんが気になったきっかけは、雑誌「VERY」の2015年12月号に載っていたインタビュー記事でした。「大好きな母のこと」を語るインタビューでは、「父と母が同じだけ働き、家事をするという家庭」で育ち、「やりたいことは自由にやらせてくれた」と鈴木さんは振り返っています。ただ一つだけ、徹底的に教え込まれたことがあり、それは、「女性を必要以上に特別視をしても蔑視をしてもいけないということ」なのだそうです。

 「今も女性の荷物を持つときに、軽いのに持つことは蔑視なのかな…と母の顔がちらつき、悩んでしまう自分がいます(笑)」と書かれていました。昨今は、「気は優しくて力持ち」というような役を演じられる人はかなり少なくなってきましたし、屈強で一見怖そうなキャラクターであっても優しさを醸し出せるのは、鈴木さんのそういった考え方の元にあるのではないかと思うのです。

文/西森路代 イラスト/川崎タカオ