素の表情が垣間見える酒の飲み番組

 地上波のみならず、BSやCSでもお酒を飲む企画は人気です。なかでも好評で長く続いているのは、俳優の新井浩文さんがホストを務める『美しき酒呑みたち』でしょう。この番組には、BS-TBSの『吉田類の酒場放浪記』などの影響があると思われます。

 番組内容としては、新井さんがツイッターで集めた情報から日本各地のお店を訪れるというものです。ゲストは、新井さんのお友たちの俳優、監督、ミュージシャンなど。地上波で毎日見かけるような人ではなく、邦画ファンにもうれしい人選で、これまでに、リリー・フランキーさん、森山未來さん、ムロツヨシさん、綾野剛さん、大森南朋さん、柳楽優弥さん、小栗旬さんなどが出演しています。

 この番組の良さは、普段、その素を見せることのあまりない俳優やミュージシャンなどが、同じ表現者である新井さんと「呑む」ことで、「え! こんな人なの?」と思わせることにもあると思います。特に綾野剛さんの回では、真夏の鹿児島で黒ずくめ、黒マスクの綾野剛さんの登場に最初から驚かされました。

 地上波の番組にとって、出演者のテンポやトークが醍醐味だとしたら、この番組は俳優やミュージシャン独特の空気を楽しむもののような気がします。また、最初からお酒を飲み続けるわけでなく、昼間はその土地を旅して、そのあとに本格的にお酒を飲むため、夜の一杯目のビールの満足感を視聴者も感じられるほか、飲み始めてから、徐々に新井さんとゲストが打ち解け、崩れていく様子を見るのも楽しいものです。

 先ほども書きましたが、ツイッターで情報を募集して、そのツイートがテロップとして挟み込まれるほか、視聴者との交流も盛んで、DVD購入者から抽選で選ばれた人が新井さんに焼肉をおごってもらえたり、“友だち”としてゲスト出演する権利が得られたりと、ほかの番組にはない身近さも人気の要因の一つではないかと思います。

 このような酒飲み企画は、制作費が抑えられるということも現場の魅力としてもあるそうですが、グルメや旅の楽しみも味わえ、またその人の素も見え、視聴者や観客にも、うまい酒を飲みたいというシンパシーも抱かせることのできる企画です。ひと時の流行りではなく、その中のいくつかは、末永く続くのではないかと思われます。

文/西森路代 イラスト/川崎タカオ