「やさしさ」と「まろやかさ」

 それにしても、これだけ芸人のいる中で、なぜ内村さんだけがコント番組を続けられるのでしょうか。『LIFE!』のチーフプロデューサー有田康雄氏のインタビューによると、内村さんのコントは「私たちが作った企画を基本にして、そこから世界を広げていく感じです」「(内村さんの)コントには、どこか『まろやかさ』があります。それは、内村さんのお人柄も大きく影響しているんだと思います」(エキサイトニュース「ScoopieNews」)と語っています。これも一つの「やさしさ」でしょう。

 芸人として自分のやり方、世界観を押し通すのではなく、周囲の言うことを聞いて、それを広げるということは、もしかしたらキャリアの長い芸人には特に心理的に難しいことかもしれません。なぜなら、自分の世界観というものを突き詰めることが芸道という考え方もあるからです。

 芸人は、普段自分のコンビでネタをするときは、演者であり作家であり演出家でもあります。だから、テレビのコント番組でも演じるだけでなく、演出家でもあり作家でもあろうとしてしまうのは理解できます。でも、お芝居で考えてみると、俳優と、作家、演出家の役割は違います(もちろんすべてを一人でやるタイプのお芝居もありますが)。『LIFE!』も、演出家も作家も演者もいる一つのカンパニーと考えると、内村さんのような在り方は自然であることが分かります。番組の座長ということを考えると、演者をする中で、後輩に自分の背中を見て学んでもらうということも可能なのです。

 「やさしい」と「正義」というと、単に人々の反感を買うことを避けているだけのように思えるかもしれませんが、だからと言って内村さんと、出演番組が視聴者におもねっていたり媚びていたりするというわけではありません。むしろ私としては、その逆にも思えるのです。なぜなら、過激で刺激的なことを売りにする番組でも、視聴者はこういうものを求めているんだろうと安く見積もると、視聴者におもねり、媚びたものになることがあるからです。

 内村さんの番組を見ていると、「やさしさ」や「正義」で視聴者に媚びているわけではないように見えます。テレビの世界で「やさしさ」や「正義」を貫くことも、実は難しい挑戦なのではないかとも思うのです。

文/西森路代 イラスト/川崎タカオ