石原さとみさんといえば、今や若い女性たちの憧れの存在です。その憧れは、これまで石原さんが出演してきた映画やドラマの中で、どう変化してきたのでしょうか。今回は、石原さんが演じた三つの役から、憧れの変遷を見ていこうと思います。

全方位に愛される『リッチマン、プアウーマン』の真琴

 ドラマ『リッチマン、プアウーマン』(2012年)で石原さんが演じた真琴は聡明で仕事も頑張るし、言いたいことも言うけれど、周囲への気遣いやかわいらしさも捨てていないキャラクターでした。このころは雑誌でも、「愛され」という言葉や、「全方位モテ」という言葉が多用され、何もかもが求められてしまう時代でもありました。そんな時代に、なんとか、石原さとみさんのようになれるスイッチが押すことができたら……と願う人たちはいたでしょう。

 漫画『働きマン』(2004年~2008年)の中には、ヒロインの「仕事モードオン 男スイッチ入ります」というセリフがありましたが(今考えると、仕事=男という考え方には違和感がありますが、当時はあまりそこについて語られることがなかったのも時代でしょう)、そんな風に、オンとオフを持ちたいという願望はあったと思います。

 オンとオフを切り替え、オンのために気合いを入れるのは、しんどいことのように考えられますが、仕事で過剰に女子力や気づかいを求められる現状があるとき、簡単に切り替えられるスイッチがあったら、乗り切れるのではないか、そんな風に感じている人もいたのかもしれません。

 しかし、このドラマの公式ホームページには、「この作品はシンデレラストーリーです」と書いてあり、社長である「リッチマン」にチャンスをもらって初めて輝けるという意味では(もちろんその後の本人の努力あありますが)、他力本願ですし、他力本願で幸せをつかむためには、スイッチを入れて他者の評価を上げないといけなかったことがうかがえます。昨今では、女子力を求められすぎて疲弊していくという現実も見られるようになり、この憧れは過去のものになりつつあるでしょう。