視点を変えたいのなら「距離を置く」が重要

 私たちは鍛錬を称揚する文化に生きています。しかし、専門性の向上の代償としてある特定の視点に縛られることになるのです。そして今までとは異なる問題に直面した時に解決策が見出せなくなってしまうのです。そんな時に必要不可欠なのが視点をずらす能力なのです。

[引用]ジョージ・カーリンが「ヴジャデ」と呼ぶものを養うことがカギである。それは既視感の中に存在する見慣れなさのことで、今まで気づかなかった可能性や解決策を明らかにしてくれるものだ。

 見慣れたものを新たな視点で見ることはなかなかのチャレンジです。もっとも手っ取り早い視点のずらし方は、「距離を置く」こと。飛行機の中や旅行先でひらめきがあるのはなにも偶然ではありません。

[引用]研究によると、私たちはあるアイデアがどこか遠くの国から出てきたものだと、それをよりクリエイティブなものだと認識するー頭の中でそのアイデアを「どこか遠くのもの」として捉えることで、もっとも重要な特徴だけが際立って見えるためかもしれない。反対にそのアイデアがどこか身近なところから出てきたものだと、私たちは些細な点に捉われたり、重箱の隅をつつくかのように異論を唱えたりする。

 これからも休暇や旅行には大きなメリットがあることが分かります。反対に働きづめでいることはあなたを狭い視点に縛りつけ、問題解決能力を低下させてしまいます。

 旅行などで物理的な距離を置くことが難しい場合は、時間的距離を置くのも良いでしょう。書き手が一度書いた原稿を「寝かせる」のも、一度バイアスを取り払って新鮮な目で再び原稿に向き合うという意図があります。

 未来から現在を見るというアプローチも有効です。下記の質問に答えてみましょう。どんなことが見えてきますか?

「あなたの将来のプロフィールはどんなものでしょうか?」
「あなたの弔辞にはどういったことが書かれているでしょうか?」
また自分の考えを書き出すだけでも、少し客観的な目で自分の状況が見えてくることもあります。

[引用]自分の人生を想像の未来の視点から振り返ることで、突然何が自分にとって大事なのか、どの戦いに挑むべきなのか、そしてどのような時間の過ごし方を誇り(もしくは恥)に思うのかが容易に分かってしまう。

問題に直面した時は……

[引用]すばらしいアイデアを必死に探さなければというプレッシャーに駆られ時は、古いアイデアを違った視点から見ることで十分かもしれないということを思い出そう。

 まずはプレッシャーのままに突き進むのではなく、今問題だと思っていることを色々な角度からみていきましょう。頑張っても、焦ってもいい答えは出てきません。ひょっとすると、自分が問題だと思っていることが問題ではなく、解決すべきことは他にあるのかもしれません。仕事やプライベート、さまざまな場面でこのアプローチが効力を発揮するはずです。

99U「You Don't Need New Ideas, You Need a New Perspective」(Oliver Burkeman著)をもとに翻訳、再構成

Profile
相磯展子(あいそ・のぶこ)
日英トランスレーター。アート専門の翻訳、通訳、プロジェクトの企画運営を行うArt Translators Collective(アート・トランスレーターズ・コレクティブ)副代表。幼少期を米国、英国で過ごし、各国の文化に強い影響を受ける。ネイティブレベルの英語力を活かし、書き手・話者の視点に徹底して寄り添う質の高い翻訳・通訳に定評がある。美術館、財団、ギャラリー、雑誌などの出版物の翻訳、ウェブメディア記事の翻訳・執筆のほか、イベント、ワークショップ、シンポジウム等の通訳や海外とのコレスポンダンスなども手掛ける。

翻訳・構成/相磯展子