8~10日目:久しぶりのインターネット。しかし、立ち上げ45分後には飽きてしまう

 Ancellにとってインターネットにアクセスできる土日も大きな発見の契機となりました。インターネットに熱中していた自分の習慣を「デトックス」を通じて客観的に見ることができたのです。

[引用]土日はインターネットにアクセスしてもOKというルールにしていたので、土曜日の朝は私を待ち受けるデジタル上の恵みに期待を膨らませ、起きるなりベッドから飛び出し、テレビをつけ、インターネットを立ち上げた。しかし、不可解なことに45分後には興味を失っていた。そしてその時、自らのインターネット習慣を分析することができた。インターネットの情報は生活を本当に豊かにしているのだろうか? 理想の靴を求めて4時間もインターネットに費やす必要はあるのだろうか? 30分で十分ではないだろうか? そんなこともあり、残りの週末はインターネットなしで過ごした。

 ここからAncellの時間の使い方が大幅に改善されていきます。

[引用]目標の2週間がもうすぐ終わるところで仕事における時間管理がだいぶ改善されてきた。時間を無駄にすることも少なくなり、より自然に集中できるようになった。《中略》分かったことは、短時間やる分には些細なことに感じられるものの、総合すると尋常ではない無駄な時間を費やしていたことである。本当に注意を向けるべき、急を要するタスクは何であるかが以前よりも確実に分かるようになった。 そして、以前よりもそうしたタスクはさほどないことを実感している。

14日目:実験終了とその後

 2週間のデジタルデトックス後、Ancellの時間の過ごし方は一転します。そしてある重要なことに気づくのです。

[引用]実験を終えた後、さまざまな新しい挑戦に専念している自分の姿があった。そして、うれしいことにその全てに集中することができた。それがメールチェック、読書、ソファでリラックスしている時間であれ、その時自分がやっていることにコミットすることに意識的でいられることは大きな一歩だ。何かをやっている時はそれに全身で打ち込もう。そして何か別のことに移る必要がある時は、なんとなくではなく意識的にやるべきである。何か特定のタスクを特定の時間に終わらせなくてはいけないということがいかに少ないかに驚くことだろう。私が守ろうと躍起になっていた締め切りや時間的制約のほとんどが必然ではなく、かなり恣意的なものであることもわかった。

デジタルデトックスで分かったこと

 2週間のデジタルデトックスが物理的に不可能という人でも、Ancellの体験談を通して学べることが数多くあります。Ancellはこの体験から得られた5つの気づきをまとめています。

[引用]
1. 集中力は伸び縮みする。四六時中インターネットをやっていたせいか私の集中力は低下していた。コンピューターから離れて時間を過ごすようになると長時間集中することが容易になった。

2. 節度のある控えめな使い方でコンピューターは実際かなり便利なツールになり得る。どんな人間関係でもそうであるように、離れているほど想いが強まるもの。私に言わせてもらうと、それがコンピューターとの関係だと、離れているほど一緒にいる時間がより生産的になるのだ。

3. 無駄に時間を使うのはインターネットのせいではない。むしろ原因は人にある。やらなくてはいけないことは延々に先送りすることができる。無駄な時間を過ごすことはオンラインと同じくらいオフラインでも容易だ。しかし、ひとつ言えることは机から離れる以外選択肢がない時の方が自分は(読者、運動、家族と時間を過ごすなど)より充実した時間の使い方をしていたということである。

4. すべてのタスクが急を要するわけではない。インターネットに繋がっていることは、切迫感を常態化させる。いったんインターネットから離れると急務だと思っていたタスクも、実際はもう少し後回しにできることに気づく。

5. 目の前のことに意識的でいることが重要。絶え間なくやってくるメール、ウェブリンク、電話をくぐり抜け、仕事日(そして仕事後のプライベートの時間)をなんとなく過ごすことは簡単なこと。覚えておかなくてはいけないのは、あなたが達成したいことに基づいて時間の采配を決め、(意識的に!)時間を使わなくてはいけないということだ。

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 Ancellが行った実験からはインターネットの使用を控えることで得られるメリットが非常に明確に分かります。あなたも2週間のデジタルデトックスを実践してはいかがでしょうか? インターネットの使用を仕事の時と、土日だけにすることは物理的にはそう難しいことではないはずです。難しい場合はちょっとしたデジタルデトックスを実践してみるのもよいでしょう。「移動中はネットサーフィンしない」「寝る2時間前はデバイスを一切見ない」「土日はインターネットをしない」など小さなルールを自分に課してみるのも効果的です。

 Ancellの体験談からもわかるように、デジタルデトックスが難しい理由はインターネットの誘惑があまりにも強いことにあります。Ancellのように最初の1週間は特に大変です。しかしこのイライラや手持ち無沙汰をかいくぐらなければ次のステップに移行できません。うっかり誘惑に負けインターネットを見てしまったとしても諦めずに2週間は続けてみましょう。自分の意志だけではできないという人は家族や友人と一緒にやってみるのもよいかもしれません。

99U「Lab Rat: What Happens When You Unplug from Your Internet Addiction?」(Brittany Ancell著)をもとに翻訳、再構成

Profile
相磯展子(あいそ・のぶこ)
日英トランスレーター。アート専門の翻訳、通訳、プロジェクトの企画運営を行うArt Translators Collective(アート・トランスレーターズ・コレクティブ)副代表。幼少期を米国、英国で過ごし、各国の文化に強い影響を受ける。ネイティブレベルの英語力を活かし、書き手・話者の視点に徹底して寄り添う質の高い翻訳・通訳に定評がある。美術館、財団、ギャラリー、雑誌などの出版物の翻訳、ウェブメディア記事の翻訳・執筆のほか、イベント、ワークショップ、シンポジウム等の通訳や海外とのコレスポンダンスなども手掛ける。

翻訳・構成/相磯展子