この連載では翻訳・通訳者の相磯展子がNY発Webby Awards受賞サイト99Uや英語圏サイトのライフコーチ、ビジネスパーソンなどの仕事のノウハウを紹介。30代女性が仕事で直面する悩みや課題に立ち向かうためのアイデアやヒントを発信していきます。

 先日ある印象的な言葉がふと視界に飛び込んできました。私自身が人に要求することを回避していたからかもしれません。

 「要求しなければ答えは既に『ノー』である」(If you don’t ask, the answer is already no.)

 あなたは、仕事の場面で自分の要求や目的を相手にしっかり伝えないまま終わっていませんか? 「こうだったらいいのに」「ああだったらいいのに」と思いつつも、「変な質問をしたくない」「相手に失礼だと思われたくない」「相手の期待に応えたい」と思うあまり黙ってしまうのは、「察しの文化」のせいでしょうか?

 例え話ですが、「私も食べたい」と思いながらまんじゅうを食べている人を指をくわえて眺めていてもしょうがありません(しまいには「なんでこの人はこんなに無神経なんだろうか?」と怒り出してしまう人もいるかもしれません)。冒頭の言葉の通り、口をつぐんでしまえば自分が得られるかもしれないものが確実に得られなくなってしまうのです。

 それだけではありません。要求しない姿勢はコミュニケーションを途絶えさせ、行き違いを引き起こします。自分の仕事環境をよくするためにも要求することはとても重要です。ひょっとするとあなたがしている我慢は、要求することで簡単に解決できることかもしれません。今週私の頭をよぎったのは次のようなことでした。

 オープンで真摯なコミュニケーションこそが、理想の協力関係や質の高い仕事、働きやすさ、成長のチャンスをもたらすのではないだろうか?

成功者は人に要求するスキルに長けている

 ライター、デザイナーのSarah Kathleen Peck(サラ・キャスリーン・ペック)はあるブログ記事(*)で次のように述べています。

 [引用]優れた要求をすることと、「ノー」と断ることは成功している人が必ず体得している2つのスキルである。上手に要求をすれば自分が欲しいものをより早く手にすることができる。そして、結果として時間とエネルギーを他のことにセーブできるのだ。

 ここでポイントなのは、「ノー」と断ることも一つの要求であるということ。それは相手に「◯◯をしてほしい」と伝えるのと同じくらい(ひょっとするとそれ以上)重要なことなのです。

私たちはなぜ要求することを避けるのか

 ではなぜ私たちは自分の要求を表現しないのでしょう? それは単純にそれをすることが怖いからです。なにが怖いかというと、一つは自分の欲求を表現した時の周囲の目。そしてもう一つは自分の欲求が受け入れられないときのがっかり感です。

 音楽系クラウドファンディングとしては最高額の120万ドル(日本円で約1300万円相当)を集めたシンガソングライターのAmanda Palmer(アマンダ・パーマー)はTEDトーク(*)で次のように語っています。

 [引用]「音楽業界は落ち目だし、あなたは著作権侵害行為である音楽のフリーシェアリングを推奨している。どうやってお金を集めたんだ?」 とメディアに聞かれました。正直な答えは、お金を出させたんじゃないんです。お金を出してくれるよう頼んだのです。 頼むことで人とのつながりができ、つながりができれば、みんな助けてくれるんです。 アーティストの多くは、そんなバカなと思っています。 誰かに頼るなんてとんでもないって。 助けを求めるのは簡単なことではありません。それに抵抗を感じる人が多くいます。なぜなら人に頼むことで自分が無防備になるからです。

 この葛藤はアーティストだけでなく誰もが共有しているものではないでしょうか? Palmerが指摘するように、勇気を出して一歩前に踏み出すことで人とのつながりが生まれ、そこからさまざまなドアが開かれていくのです。そしてそれはあなたの恐怖心よりもはるかにポジティブな結果をもたらします。