夫婦社員と上司が参加する出産前セミナー。夫に育児参画をすすめる

――昨年からユニークな産休前セミナーを実施していると伺いました。

山門:当社は社内結婚が割と多いのですが、これまでは社内結婚した夫婦に子どもができると女性が育休を取得し復帰後は短時間勤務となるパターンが多かった。そうすると女性の職場には、休み中の代替要員の手当や、復帰後の職務アサインをどうするかなどの課題が生じてしまいます。かたやその夫である男性社員の働き方は変わらずで、その結果、男性の職場には影響は出ないのに、女性の職場に負担が生じるという不均衡が出てきたんですね。それで、昨年から、産休前セミナーに配偶者の夫とその上司も参加するよう促し、夫婦社員とその上司という4人を1チームとして研修を受けてもらっています。

夫婦社員とその上司の4人が1チームで行われる産休前セミナー。生まれる前から夫の育児参加を促す。1月に開催されたセミナーの模様。
夫婦社員とその上司の4人が1チームで行われる産休前セミナー。生まれる前から夫の育児参加を促す。1月に開催されたセミナーの模様。

――当該女性と上司対象の産休前セミナー参加はありますが、その配偶者、さらにはその上司も参加というのは聞いたことがありませんね。

山門:職場復帰したときに女性社員だけに負担がかからないように、夫である男性社員はどれだけ育児を負担できるのかとか、4人そろえばそういう本音ベースの話もできます。ふだん言いにくいことも言えるかと思います。

 もう、母親ひとりが育児をするのは無理なんです。母親社員のキャリア形成をストップしないためには夫の育児参加が必要です。男性やその上司にはそこを理解していただきたい。上司も含めた意識改革をしていかないと女性の活躍は難しいと思います。半年間女性が休むよりも、例えば夫婦で交代で育児休業を取ってもらえれば、女性のキャリアの中断期間が短くなり、キャリアのロスもなくなります。

――男性社員にも家事・育児の参画をすすめる。トヨタにとってそれは損失にはならないということですね。いまだに育休を取りたいと男性がいうと、「何、考えているんだ」「出世しなくていいのか」と言う上司も一般的に多いようですが。

山門:当社もかつてはそうだったかもしれませんが、トヨタはそれを変えていかなければいけないと思います。「子どもを育てながら働く」ということが当たり前なんだということを理解してもらう必要があると思います。特に子どもを産まない男性に。

 男性が育児をすることをいい経験だと考えています。そうすると、その人が上司になった時に「育児と仕事は両立できるよ、全然心配ないよ」と部下にアドバイスできますよね。そんな管理職が増えたら、優秀な女性社員のロスを少なくできる。そういう管理職のもとだと、子どもを育てながら活躍する女性は増えると思いますし、ロールモデルもたくさん誕生し、さらに女性の活躍は進む。好循環は生まれ、人材競争力が上がる。これが一番大きい効果だと思っています。

 当社は愛知県という地方にある会社なので女性人材の獲得にはハンデがある。そういう社風の醸成や両立に理解のある管理職を増やすことで、女性技術者の獲得に対して手を打っていきたいと思っています。

――世界のトヨタでも獲得に苦労すると。

山門:女性エンジニアはなかなか採用できないですね。工学部に進む女性ですらまだまだ少ない状況です。ですから、トヨタグループでは、女性技術者を増やすために2014年にトヨタ女性技術者育成基金を設立しました。進学前の高校生に対して理系の魅力を伝え理系進学を意識してもらい、理系女子大学生にはキャリア育成・支援活動をしています。

――トヨタグル―プ全体で女性技術者育成に注力するということですね。

山門:そうです。1社でやることには限界はあるというのは、先ほどの産休前セミナーでの男性の意識改革もそうです。社内結婚はごく一部なので、社内だけでやっていても完結しない。トヨタグループ企業とも相談したいと思っていますし、その輪を愛知県下に広げれば、夫が愛知県のどこかの企業に勤めていれば、夫婦の役割分担にも少し違う世界が広がってくるのではないかと思っています。

 ブレークスルーのためには男性も含めた意識改革が必要ですし、働き方も変えていきます。女性活躍の完成形は、男性も女性も関係なく活躍したい人が活躍できる会社になることです。それをトヨタは目指します。

取材・文/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員、撮影/早川俊昭

日経BPヒット総合研究所では2月2日と3月4日に女性活躍先進企業が取り組む「ダイバーシティ管理職研修」と「女性リーダー育成研修」体験会を行います。
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