イノベーションが生まれる場の条件とは

――リーダーになるには、いわゆる“一皮むける体験”が重要だと言われますが、それを、敢えて仕組みとしてWLPのなかにはめ込んでいるわけですね。

牛島:そうです。まだまだ日本社会では、女性活躍の推進は、“あえて”やっていかないと進んでいかないという部分は大きい。下手をすると男性社員からは、逆差別的だと言われかねませんが、そこは信念をもって突き進む。これまでプログラムを受けた受講生のなかで、今年、課長候補に挙がっている女性が5人ほどいます。

――ダイバーシティ推進に取り組み始めて4年。これまでの成果をどう見ていますか?

牛島:徐々にではありますが、議論によって何か新しい知識を生んでいくという形が浸透してきました。そうした場に、女性も一緒に入り、議論ができるようになってきています。ES調査でも「自分の仕事に自信を持てるようになった」「属性に関係なく成果で評価されるようになった」「昇格昇進に均等な機会があるか」「制度の利用しやすさはどうか」といった質問で、いずれもポイントが上がってきています。

――お話を伺っていると、強い信念の下でダイバーシティを進めていることを感じます。人事を司るトップとして、ご自身のベースとなっている考え方を教えてください。

牛島:「知識創造理論」で知られる経営学者の野中郁次郎先生から受けた教えが、私の経営に関する考え方のベースとなっていますね。今から15年前、富士通で次世代のリーダーを育てるためのプログラムとしてGlobal Knowledge Institute(GKI)を立ち上げた際、エクゼクティブアドバイザーとして招いたのが野中郁次郎先生でした。先生は知識創造における「場」の重要性を説いていらっしゃいます。それは単なる場所ではなく、ビジョンを描くリーダーがいて、それに共感する人々が集まり、議論が巻き起こる、有機的な「場」のことを指します。それこそがまさしく、2013年6月に開設した「みなとみらい Innovation & Future Center」なんです。

――こちらの「みなとみらい Innovation & Future Center」は、ガラス張りの教室が並び、デッキスペースやカフェブースもあり、近未来的で開放的な空間ですね。窓から一望できる横浜の景色も素晴らしいです。こちらはどういったコンセプトで作られたのか教えてください。

牛島:多様な人が集まり、いろいろなアイデアをぶつける。「未来を議論する場」が、コンセプトです。お客様が抱える議題を解決し、新しいビジネスを興していく時には、狭い範囲で話していても革新的なアイデアは生まれません。我々を含め、産官学の様々な組織と対話を重ね、既存の常識にとらわれないことで新たなイノベーションを生み出します。先日は、「食と農業の未来を考える」という会を主催したのですが、農政の専門家や医師、フードライターなどに来てもらい、活発な議論を交わしました。仕事も同じだと思うんです。机にかじりついて担当者同士が議論していても、課題は解決しません。多様な人材が集い、知識を集結させることで新たなイノベーションが生まれます。当然そこには、女性もいるべき。それこそがダイバーシティだと思います。

センター長を務める「みなとみらい Innovation & Future Center」は「未来を議論する場」がコンセプト
センター長を務める「みなとみらい Innovation & Future Center」は「未来を議論する場」がコンセプト

(インタビューアー/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員、文・構成/西尾英子)

日経BPヒット総合研究所では2月2日と3月4日に女性活躍先進企業が取り組む「ダイバーシティ管理職研修」と「女性リーダー育成研修」体験会を行います。
詳しくはこちら