評価会議で女性への評価を差し戻すことも

――アスクルの推進活動の特徴はなんでしょうか。

岩田:当社は自由闊達な風土があり、ダイバーシティを受け入れる社風はもともとあるのですが、これまで暗黙の了解で行ってきたことは多い。しかし、新しい社員が増えていくなか、暗黙知に引き継がれてきたものを、このタイミングでしっかり明文化し、社員全員に徹底していくことが必要だと考え、制度化・仕組化しているのが特徴です。

 また、ダイバーシティに関しては、方針はトップダウンで発信していますが、仕組みや制度は有志で募った社員からなる分科会で議論し、ボトムアップで経営層に提案するという仕組みがあるのも特徴の一つでしょう。分科会は、「女性役職者」「育児」「働き方・働くスタイル」「管理職意識改革」「啓発・情報発信」「介護」の6つに分かれており、自発的に参加した30人の社員が参加しています。分科会の活動報告の場には私も必ず参加していますが、私が想定していることと、現場の社員の実態は違うことも多く、とても勉強になりますね。現場主導で社員のリアルな悩みと、その具体的な解決策が次々と出てくるので、優先順位をつけながら、迅速に制度化・仕組化しています。

――他社では制度や仕組みはあっても、ダイバーシティを受け入れる風土がなかなか醸成できないというケースが多いのですが、アスクルは逆だということなんですね。まだ取り組みを始められてから数カ月ですが、実感されている効果はなんでしょうか。

岩田:目に見える効果としては、宣言以降、部長職の女性の割合が約3%増えて15.9%になったことです。人数でいうと4人になります。もちろん、もともとは能力の高い中間層にいる女性をしっかり評価し、引き上げた結果です。評価会議には私も出席しますが、女性たち一人ひとりの評価をチェックし、場合によっては評価を差し戻すこともあります。また、経営幹部たちも、昇進候補グループに女性がいないと、女性がいなくていいのか、なぜ女性がいないのかという意見が上がるようになり、幹部の意識の変革も感じられます。

――厚生労働省の調査では、2014年の女性部長比率は6.0%。平成元年には1.3%ですから4半世紀以上たっても4.7ポイントしか上がっていません。それからすると女性部長比率が四半期で3%アップとは、大きな成果ですね。 2020年までに女性管理職比率30%という目標数値も掲げていますが、女性活躍推進における制度化・仕組化はどのようなものがありますか

岩田:例えば、研修制度です。将来の幹部候補者のなかから試験的に社外派遣を行ったり、外部研修に参加させています。当社の女性執行役員たちは、自ら学びたいと手をあげ、ビジネススクールに通ったり、海外留学を経て当社に戻ってきました。彼女たちのように「やりたい」と声をあげれば、そのチャレンジを応援する風土はあるのですが、一方で「やりたい」と申し出ることができない人たちにはなかなかチャンスがありませんでした。そこで、今後は「やりたい」と声をあげられない女性たちにも積極的に学びの機会を与えられるよう、制度を整えていく予定です。

 能力はあるけれど、キャリアアップに控えめな彼女たちを後押しすることで、女性管理職はさらに増えていくと考えています。

――ダイバーシティ推進、とりわけ女性活躍のためには働き方改革も重要な課題です。アスクルでは業務改善運動など、何か取り組まれていることはありますか。

岩田:2006年から、「ムダバスターズ」という、業務改革を行い、生産性向上を目指す活動を継続しています。最近では時間の効率化をテーマに掲げており、社員一人ひとりが業務プロセス見直しを行い、時間管理を徹底するよう働きかけています。 また、長期休暇取得も推進しており、私自身、夏休みは2~3週間取得します。比較的休みは取りやすい環境ではないでしょうか。仕事を頑張るときも必要ですが、しっかり休んで充電し、メリハリをつけて働くことで、パフォーマンスはさらに上がりますから。

(インタビューアー/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員、文・構成/岩井愛佳)