ステークホルダーに対し女性活躍度合を見える化

 この法律の狙いは、女性活躍の度合をステークホルダーに可視化するということだ。学生、消費者、取引先、投資家などなどさまざまな利害関係者に対して、現在の数値を公表することや認定マークの付与などで、「女性が活躍している会社はここです」とすぐにわかるようにするということ。学生がどこに就職しようかと考えるとき、消費者がどこの商品やサービスを購入しようかと考えるとき、また企業がどこかに仕事を発注しようと考えるとき、また投資家がどこに投資しようかと考えるとき――つまりいろいろな利害関係者が企業を選ぶときの判断材料のひとつに、「女性活躍の度合」がなる。その際に、競争原理、市場原理が働くので、企業は切磋琢磨して女性活躍を進めてくれるだろうというのが政府の目論見だ。

 えるぼし認定が開始されることで、企業は女性活躍の度合に応じて「格付け」されることになる。まず、厚生労働大臣にえるぼし認定されるかいなかで、企業は大きく二つにフィルタリングされる。さらに、認定企業の中でも三つに分かれ、「女性活躍の三ツ星企業」から「星なし企業」まで四つに格付けされることになる。

 今の時点でえるぼし認定はまだないが、横並びで企業の情報が見られるというインパクトは予想以上のものがある。

 施行直前の3月、企業を取材していると、行動計画の策定よりも、公表項目を何にするかに頭を悩ませている企業が目立った。大手企業では、できるだけ多くの項目を公表するようにグループ企業に呼び掛けているところもあるが、企業が慎重に公表項目を選ぶ裏には数字がひとり歩きして間違ったように解釈されてしまう恐れもあるからだろう。

 女性管理職比率が高いほうが必ずしも女性活躍が進んでいると言えない場合がある。例えば、製造業A社は女性社員比率10%で女性管理職比率10%、金融業B社は女性社員比率50%で女性管理職比率が20%だった場合、女性管理職比率だけで見ると一見B社のほうが女性活躍が進んでいるようにみえるが、女性が採用しにくい製造業において女性比率が少ないながら、きちんと育成登用して女性人材のパイプラインが構築されているA社のほうが進んでいるともいえる。「求職者はそのような業界別の特色も勘案しつつ見てくれるのか」「備考欄や自主的に掲載したい項目を書ける自由記述欄も読み込んでほしいのだが」という声が上がっている。「データベース」という定量的な要素にはなかなか反映しづらい自社の女性活躍の状況を、違う形でより丁寧に伝える必要性は高まったのかもしれない。

 なお、301人以上の大企業は、施行前に行動計画の策定や公表を終えていることが義務である。次なる政府の狙いは、努力義務となっている300人以下の中小企業に行動計画を1社でも多く策定・公表させることである。

女性活躍推進法や女性活躍推進のために企業がすべきことをわかりやすく解説。2015年版「日経WOMAN女性が活躍する会社ベスト100」の各業界トップの20社の戦略と詳細な人事施策も紹介している 「女性活躍の教科書」(麓幸子・日経ヒット総合研究所編/日経BP社)

取材・文/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員
日経ビジネスオンライン2016年4月1日の掲載記事を転載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。