自分の反省からも、イクボス育成を進める。アワードも実施。

――女性活躍推進フォーラムに、トップが半日も時間を割いているとは驚きました。宮本社長は、女性が活躍することでどのような新しい風を期待していますか。

宮本:当社にとっては女性に限らず、ダイバーシティそのものが新しい風です。これまで男性ばかりでやってきた組織に女性が入ったり、外国人や障がいを持った人が入る。それだけで、かなり違いますよね。また、社外からいろんなバックグラウンドを持った人が途中で入ってくるのも同じです。コミュニケーションの輪が広がるし、多様な考え方も入ってくる。私は、そこに大きな期待を寄せています。

 特に最近では障がいのある人について、それぞれの特質を生かした仕事をアサインし、一緒に働く環境作りを模索しています。

 そもそも、障がいのある人、とりわけ視覚障害について考えるきっかけになったのは、「天城アクセシビリティ会議」と「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)」に参加したことです。この会議がきっかけで、視覚に障害がある人でも働けるような環境を作るにはどうしたらいいか、さらに、「みんなが共生できる社会」実現に向けて取り組むことを考えるようになりました。

――DIDは、完全な暗闇のなかで対話をするというものですよね。

宮本:はい。DIDを体験すると自分の無力さが分かり、健常者のおごりといったものを認識することになるんです。3年前から当社の新任管理職は全員体験するよう、研修プログラムにも取り入れました。パワハラやセクハラは「自分はえらいんだ」というおごり、高ぶりから生まれるもの。一度暗闇に入って、自分の無力さを実感し、人を思いやる心を取り戻してほしいと考えています。

――管理職といえば、15年は「イクボスアワード」として、イクボスを表彰するイベントも実施しました。

宮本:管理職が多様な働き方を理解し、皆が一緒に働ける環境をつくる。それが、イクボスです。育休から復帰した女性を温かく迎え、将来のキャリアを見据えた上で働き方を一緒に考える。男性が育休を取りたいといったら取らせてあげる。そういうことをやっている管理職を表彰することで、ほかの管理職の理解を促進し、イクボスを育てていくのが狙いです。

 実は、イクボス育成は私の反省でもあります。私は妻に家事・育児を全部任せてきました。そのため、私も息子2人も家では何もやってこなかったんです。しかし、2人とも結婚したとたん、共稼ぎになり、食事や洗濯は当番制でこなしています。それを見て、環境が変われば人も変わるんだと知りましたね(笑)。

――イクボスアワードには21の応募があり、大賞は3つ。その一つは、育休復帰した女性部下に対し、長期的なキャリアプランを一緒に考える上司だと伺いました。他社だと育児と仕事の両立を慮りすぎて、簡単な仕事しか与えず、女性のモチベーションが下がってしまうケースが多々ありますが、清水建設はいかがですか。

宮本:仕事の与え方は個々に任せてありますが、私が常々言っているのは、少なくとも休む前と同じレベルの仕事をアサインしてほしいということです。簡単な仕事だと、どうしても仕事に対するモチベーションは上がらないですから。

昨年初めてのイクボスアワードを実施。3人の大賞受賞者たちと
昨年初めてのイクボスアワードを実施。3人の大賞受賞者たちと

――最後にダイバーシティを推進する上で、障害となっているものは何だと思いますか。

宮本:あえていうなら、社員の「意識」でしょうか。2年ほど前、女性活躍推進の話をしたとき、ある社員が「女性活躍の必要性はわかる。社長のおっしゃるとおりです。ただ、今すぐ女性上司がきたら、うーん……と戸惑います」と正直に話してくれました。それもひとつの事実として理解しておかないといけません。そして、こういう意識を変えていくには、時間がかかります。私がトップとしてダイバーシティの必要性を言い続けることが必要ですし、徐々にいろんな部署に女性管理職が増え、成果が上がってくると、皆の意識も変わってくるはずです。意識の壁は必ず乗り越えられると考えています。

取材・文/麓幸子=日経BPヒット総合研究所長・執行役員
日経ビジネスオンライン2016年3月18日の掲載記事を転載。情報は記事執筆時に基づき、現在では異なる場合があります。